観光気分では絶対に無理!「南インド」鉄道の旅 庶民の暮らしを運ぶ、鉄道のよさを再発見

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このメトロ、近郊列車のないベンガルールでは、都市内交通機関として定着しつつあったが、チェンナイのメトロは終日ガラガラで、通勤時間帯でも楽に座れた。チェンナイといえば、前述通り、近郊列車はドアにぶら下がって乗車しているほど混雑しているにもかかわらずである。

大きな原因は運賃の高さにあるようで、近郊列車で10ルピー(約16円)の区間にメトロだと50ルピー(約80円)もする。それでも日本の感覚では格安だが、貧富の差の激しいインドでは、これも前述通り、差は100円と500円なのである。

改札口前には荷物検査場もあり、セキュリティが厳しい。国鉄に比べて禁止事項も多く、飲食、床に座る行為、ホームでの停留も禁止である。つまり、国鉄駅で行われているような行為のほとんどができない。

日本の援助で導入されたが・・・

私にとって不満だったのは、カメラによる撮影禁止であったこと(モバイル端末のカメラはOK)。ベンガルールでは、荷物検査時にカメラがあると「地下鉄施設内はカメラ撮影禁止」を告げられ、ノートに名前、パスポート番号、携帯電話番号、サインを記入させられる。カメラを持っていることが悪いといわんばかりの対応であるが、観光客ならカメラくらい持っているはずなので、裏を返せば、観光客が少ないのだ。国鉄では写真を撮っていると運転手や車掌が手を振ってくれるくらいなので、同じインドでも国鉄とメトロは大違いである。

これらのメトロ建設には日本が大きく関わっていて、何百億円という円借款が使われている。しかし、私の見た限りチェンナイのメトロは終日閑古鳥が鳴く状態で、施設は立派であるが、多くのチェンナイ市民はエアコン、ホームドア完備のメトロより、ドアが開きっぱなしの国鉄を利用していることは事実である。

地下鉄ゆえに建設費は膨大であり、運賃は妥当であろう。また、インドほどに貧富の差があると、底辺に合わせたレベルの都市鉄道建設も難しいであろうが、庶民が利用できていない都市交通というのも不合理に感じた。人口の多い国だけに、将来を見据えるとLRTなどという選択もなかったのであろう。

発展途上国における都市交通整備の難しさも感じたのである。

谷川 一巳 交通ライター

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たにがわ ひとみ / Hitomi Tanigawa

1958年横浜市生まれ。日本大学卒業。旅行会社勤務を経てフリーライターに。雑誌、書籍で世界の公共交通機関や旅行に関して執筆する。国鉄時代に日本の私鉄を含む鉄道すべてに乗車。また、利用した海外の鉄道は40カ国以上の路線に及ぶ。おもな著書に『割引切符でめぐるローカル線の旅』『鉄道で楽しむアジアの旅』『ニッポン 鉄道の旅68選』(以上、平凡社新書)などがある。

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