近鉄特急ひのとり、速さ・安さと違う「魅力」は? 「レギュラー」でも座席は新幹線グリーン並み

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目に見えない部分では、無線LANによるインターネット接続にも力を入れた。無料Wi-Fiを提供する列車が増えているが、いざ使ってみると、容量不足のせいかつながりにくいケースも少なくない。深井部長は「その点についても考慮した」と話す。さすがに乗客全員が動画を視聴したらつながりにくくなるだろうが、快適なネット環境が確保されていることを期待したい。

車内の快適度が増した分だけ、料金は若干の引き上げとなった。「特別車両料金」として、大阪難波―近鉄名古屋間ではプレミアム車両で900円、レギュラー車両で200円を上乗せする。利用者にアンケートをとって、「これくらいの値段なら乗ってくれるという設定にした」という。

定員は減っても快適性を

一方で、シートの前後間隔を広げた分、列車の定員数は名阪特急から退く12200系6両編成と比べて減った。ひのとりのプレミアム車両の1両当たりの定員は21人、レギュラー車両は多目的トイレの有無などによって車両ごとに定員数が異なるが、40~52人。6両編成の場合の定員は239人となっている。12200系6両編成の定員は400人近いので、大幅な定員減となる。

「定員の減少については、社内でも抵抗があった」と深井部長は明かす。もっとも、利用者数が多い状況で定員が減ると利便性が下がるが、おそらく現状の名阪特急の利用状況は定員数の変化に影響されないレベルなのだろう。

むしろ、老朽化の目立つ12200系が快適性に優れたひのとりに置き換わることで、乗ってみようと考える人は増える可能性がある。さらに言えば、239人分の上乗せ料金を合計すれば数十人分の運賃・特急料金に見合う。

ひのとりのプレミアム車両に乗るために900円の特別料金を払っても、大阪難波―近鉄名古屋間は5240円で、新幹線「のぞみ」よりも割安だ。従来、名阪特急を使う理由として、「大阪の南部から名古屋に向かう場合、新大阪に出る手間を考えると、名阪特急のほうが楽だ」という声があったが、それだけが名阪特急の存在意義ではない。

最近の観光列車の中には、「乗ること自体が目的となる」をコンセプトにしている列車が多い。ひのとりは観光列車ではなく、都市間移動を目的とした列車だが、「わざわざ乗ってみたい」と思わせるだけの実力を秘めている。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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