実際、財政収支試算も、長期金利は2026年度以降には2%を超え、2029年度には3.2%になるとしています(「成長実現ケース」)。
そうなれば、国債費も増加せざるをえなくなります。
ただし、金利が上昇しても、すぐに国債の利払い費が増えるわけではありません。新規発行と借り換えに伴って残高中の新金利国債が増加するにつれて、増えていくのです。
ところが、財政収支試算は、2029年度までしか対象としていません。このため、国債費が増加する期間は対象外となっています。
このように、タイミングがうまく設定されているために、問題が見えなくなっているのです。しかし、これは、財政の将来を考える場合にはきわめて深刻な問題です。
高成長前提では、未来に対する責任放棄に
以上のような問題があるにもかかわらず、財政収支試算は、ただ同じことについて時点を変えて繰り返しているだけです。「数年経てば、成長率は2%程度になる」として、単に開始時点と終了時点をずらしているだけのことなのです。
名称は変わっており、2010年の見通しで「慎重シナリオ」と「成長戦略シナリオ」と呼ばれていたものは、「ベースラインケース」と「成長実現ケース」となりました。しかし、基本的には同じことです。
「成長実現ケース」で2%程度の実質成長率が想定されていることも変わりません。
この方式を始めてから10年が経ってわかったのは、「2%成長は不可能」ということです。すでに10年経ったのですから、ここで一区切りをつけなければならないでしょう。
いま必要なことは、まず、「なぜ実現できなかったか」を検証することです。
それを行わずに、ただ機械的に将来に向かってこれまでと同じ計算を繰り返すだけでは、文字どおり「問題の先送り」にしかなりません。
2%の実質成長は実現できないとわかったのですから、これに基づいた政策は、虚構以外の何ものでもありません。高成長シナリオは捨てなければなりません。高成長シナリオを示すのであれば、その実現のために何が必要かを明らかにするのが望ましいのです。
日本の政策体系全体が、2%実質成長という虚構の土台の上に立っています。虚構は実現しないのですから、日本の政策は、将来に向かって維持することができないことになります。
それは、未来に対する責任放棄以外の何ものでもありません。
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