日本株は5GやIT好況だけでは上昇しない なぜ米株に「置いてけぼり」を食らうのか

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もっとも、新型肺炎の感染拡大という突発的事象に対して市場がリスクオフで反応するのは当然だ。したがって、株価の下落そのものに違和感はない。中国の経済活動が強い下押し圧力にさらされ、アジア地域の経済活動が滞れば、企業収益の期待値が低下(不確実性が増加)するのは明らかであるから、むしろ株価が下落しないほうがおかしい。生産・物流が滞りサプライチェーンが寸断すれば、アジアのみならず世界中に影響を与える。

ただし、筆者は日本株の下落ペースがアメリカ株との比較で、不可解にきついことに違和感を禁じえなかった。地理的に中国との距離が近い日本のほうが新型肺炎に対する懸念が意識されていることは事実だろうが、それとは別の要因もある気がして仕方がない。

その“別の要因”を議論する前に、筆者が描く2020~2021年の基本シナリオを再確認しておきたい。

まず、製造業については半導体を中心とするIT関連財に強気な見通しを維持しており、同セクターについては企業業績(≒生産)・株価とも楽観視している。実際、世界半導体売上高は5G関連需要が一部発現するもとで、2019年央をボトムに着実な増加を遂げ、もはやサイクル好転は既成事実と言っても過言ではない状況にある。

このセクターは5Gに加え、AI、IoTといった有望なテーマが同時に走るほか、将来的には自動運転の実現によって爆発的需要も期待できる。こうした状況で投資家の期待を集めるのは自然だ。

自動車輸出の広範囲な地域での伸び悩みが気がかり

他方、製造業の中で気がかりなのは自動車だ。消費増税の影響によって国内販売(≒生産)の弱さが目立つのは当然の結果としても、中国を筆頭に広範な地域で輸出が伸び悩んでおり、国内生産・輸出はともに著しい減少基調にある。

もちろん、国内生産および輸出が不振だったとしても現地生産(販売)が好調なら連結の企業収益は満たされるため、国内生産・輸出の弱さについて過度な悲観は禁物だ。ただし、国内経済への波及効果を考えた場合、目下の生産動向は楽観視できる状態ではない。

生産の弱さについては、既往のクルマ離れに加え、世界的なライドシェア拡大、さらには欧州における環境意識の高まりなど、さまざまな構造変化が急速に進んでいる面もあり、弱さが長期化する可能性もある。このセクターは投資家の期待が膨らみにくい。

筆者は冒頭で「製造業セクターの回復を株価が反映する」ことをメインシナリオとした。ただし、リスクシナリオとして自動車セクターの不振が長期化し、IT関連財の回復を帳消しにしてしまう可能性がゼロではないことを認識しておきたい。

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