ハイローラーも焦る、新M&Aラッシュ すでに次のターゲットを見据えているのか

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だが、今のソフトバンクは、身動きを取りにくい。赤字のスプリントを立て直し、米国で存在感を示すことが最重要課題だからだ。Tモバイルとの合併実現が長引けば、直近で何とか増加に転じたスプリントの契約者数が再び減少に転じるシナリオも否定はできない。

シリコンバレーに拠点を置く日本のベンチャーキャピタル幹部は「ソフトバンクは米国ではヤフーを育てた投資家というイメージが強かった。スプリントを短期間でターンアラウンドしなければそのイメージが崩れる」と懸念する。

ベライゾン、AT&Tの2強で携帯市場のシェアは約8割に及ぶ。シェア1割強にすぎないスプリントの巻き返しが難しいのは当然だ。

そうした境遇を見透かし、毛色の違う投資家がソフトバンクに接近している。

米有力ヘッジファンド・サードポイントのダニエル・ローブCEOは、Tモバイルの大株主となったことを今年1月の投資家向けの手紙で公表。「スプリントとTモバイルの統合が実現すれば、携帯サービス業界の2大プレーヤーによる長年の市場シェア、利益シェアの独占に対抗できる真の勢力が生まれる」と主張。携帯業界の再編劇の中でサヤを稼ごうとしている。

さらに毛色の違うハイローラーもやって来た。孫社長と20年来の付き合いがあるラスベガス・サンズのシェルドン・アデルソンCEOは今、「日本でカジノを経営するのであれば孫さん」とラブコールを送る。「1兆円の投資をする用意がある。必要なのは経営者。孫さんのようなリスクテイカーでなければダメだ」。

アリババが財布に?

カジノ経営などソフトバンクが行うはずがないと思うかもしれないが、投資に見合った利益が期待できる案件であれば見逃すことはしないだろう。

問題はどのように賭け金を確保するか。相次ぐ買収でソフトバンクの借金は膨れ上がっており、いたずらにそれを増やすわけにもいかない。そこでカギを握るのが、グループ企業の株売却だ。

上場すれば10兆円ともいわれる中国のアリババ株はその最右翼。ソフトバンクは同社株の36.7%を保有する筆頭株主。米ヤフー株を売って軍資金を得ていたように、M&Aの“財布”代わりになるかもしれない。

孫社長は電光石火の「引き技」を持っている。1990年代ニューズ・コーポレーションのルパート・マードック会長と組んで、デジタル衛星放送事業「JスカイB」を設立。当初はマードック氏の支援を得ながらも独力で進めようとしていた。ところが、それが難しいとわかった途端、ソニーやフジテレビを出資者に誘い込んだ。そして最終的にはパーフェクTVと合併することで経営の一線から退いた。

「ヤバイと思ったとき、撤退は早ければ早いほどいい」(孫社長)。数年後は、米国事業の中心は通信インフラではないのかもしれない。

週刊東洋経済2014年3月15日号〈3月10日発売〉核心リポート01-3)

 

井下 健悟 東洋経済 記者

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いのした けんご / Kengo Inoshita

食品、自動車、通信、電力、金融業界の業界担当、東洋経済オンライン編集部、週刊東洋経済編集部などを経て、2023年4月より東洋経済オンライン編集長。

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山田 俊浩 東洋経済 記者

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やまだ としひろ / Toshihiro Yamada

早稲田大学政治経済学部政治学科卒。東洋経済新報社に入り1995年から記者。竹中プログラムに揺れる金融業界を担当したこともあるが、ほとんどの期間を『週刊東洋経済』の編集者、IT・ネットまわりの現場記者として過ごしてきた。2013年10月からニュース編集長。2014年7月から2018年11月まで東洋経済オンライン編集長。2019年1月から2020年9月まで週刊東洋経済編集長。2020年10月から会社四季報センター長。2000年に唯一の著書『孫正義の将来』(東洋経済新報社)を書いたことがある。早く次の作品を書きたい、と構想を練るもののまだ書けないまま。趣味はオーボエ(都民交響楽団所属)。

 

 

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