年収400万円の人が「労働から解放」される方法 じわじわ広がるFIREムーブメントの実際

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日本の世帯年収の中央値は430万円程度と言われている。現実的な数字に落とし込むと、例えばリタイア後の年間生活費を240万円(月20万円)に抑えて、そのうち40万円を自分の好きな副業で補うとした場合、リタイアまでに貯めておく必要のある目標額は200万円×25=5000万円となる。年収のうち毎年200万円を投資に回して7パーセントの利回りで運用できれば、およそ15年で経済的自立に到達できる計算だ。投資に回せる金額が年間100万円だと、23年ほどかかることになる。

労働から自由になって何をしたいか

FIREにおいて大切なポイントは、仕事を辞めること自体が1番の目標ではないということだ。

アメリカで昨年実施されたアンケート調査によると、多くの人がFIREの魅力は早期リタイアすることではなく、お金の悩みから解放されて、人生の時間を自分の好きなように使えることにあると回答している。お金のために働く必要がなくなったとき、人生の時間を何に使いたいのか? そこに明確な目的意識がないと、FIREの実現は難しいし、実現したとしてもその後の膨大な時間を無為に過ごしてしまうだけだ。

FIREとは節約術や投資、副業をうまく活用することで、人生のほとんどの時間と精力をフルタイムの雇われ仕事に注ぐ生活から自分自身を解放する生き方だ。

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裏を返せば、いまやっている仕事に生きがいを感じている人や、リスクが怖いから投資も副業も絶対に手を出したくないという人向けの生き方ではない。家族ともっと多くの時間を過ごしたい、世界中を旅行してみたい、何かを自分の手で創作してみたい、収入を気にせずに社会に真に貢献できる活動をしたい。そうした思いを抱えている人たちに、FIREは新たな生き方の可能性を開いてくれる。

『資本論』で有名なドイツの哲学者マルクスは、「共産主義社会では個人がひとつの職業に縛られることなく、自分の好きなように朝は狩りをし、午後は漁をし、夕方には家畜を追い、食後には批判ができる」と思い描いた。また、英国の経済学者ケインズは、「2030年には週の労働時間が15時間となる」と予測していた。過去の偉人が思い描いた社会は実現していないものの、FIREは個人の努力と創意工夫次第でそうした生活が可能であることを示唆してくれている。

岩本 正明 翻訳者

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いわもと まさあき / Masaaki Iwamoto

1979年生まれ。大阪大学経済学部卒業後、時事通信社に入社。経済部を経て、ニューヨーク州立大学大学院で経済学修士号を取得。通信社ブルームバーグに転じて独立。訳書にグラント・サバティエ『FIRE』(朝日新聞出版)、ジョン・プレンダー『金融危機はまた起こる』、ジョージ・ボージャス『移民の政治経済学』、ダニ・ロドリック『貿易戦争の政治経済学』(以上、白水社)、グレン・アーノルド『ウォーレン・バフェットはこうして最初の1億ドルを稼いだ』(ダイヤモンド社)がある。

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