突然キレる父親に40年心を縛られた男性の苦悩 「毒親の呪い」は無理して克服しなくてもいい

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「世の中には自分と同じような境遇の人でも、それを克服して会社や家庭という組織をリードしたり、親や兄弟を助けたりしている人もいます。そういう意味で、ぼくは世間並みの苦労をしていないといえます。自分が変わらなければ世界は変わらないのに、ぼくはそこを変えずに人生を逃げ延びようとして失敗したのです」

そういう飯田さんに「それは自分のせいなのでしょうか? 親の接し方のせいではないのですか?」と尋ねてみた。

「それもあるでしょうね。社会をリードする人というのは、父親のように突然、激怒したりする人なのだと思っていたのです。偉大でも、あのような人の側(がわ)には居たくないとも思っていました。身近に男性のロールモデルがなく、40歳過ぎまでまったく見つけられませんでした」

「自分らしく軟弱でいたい」

アダルトチルドレンに関する本を読みあさったという飯田さんだが、「結局、答えは見つかっていない。自分では何も変えられなかった」という。「それでも」と飯田さんは言葉を続けた。

「以前は『私は、いまはダメですが、立派になろうとしています』と、努力をしようとしていました。あるとき、それをやめて、『私は周囲の人に迷惑をかけるかもしれない。早く死ぬかもしれない。それでも自分らしく軟弱でいたい』と自分の気持ちを変えたのです。そうしたら離れていく人もいましたが、好感を持つ人もいたのです。無理のない自分になることで理解してくれる人もいるんですね」

ずっと父親の影響から逃れられなかった飯田さんだが、ここ1年ぐらいで「親も外界も悪かったのだ」と開き直ることができたという。それまでは「自分が変わらなければ」と悪戦苦闘してきた。毒親の下で育った人のなかには、その毒をはねのけ、克服できる人もいるだろうが、そんな強い人間ばかりではない。「開き直る」というのも、毒親の支配から逃れる方法の1つと言えるのではないだろうか。

佐久間 真弓 フリーライター

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さくま まゆみ / Mayumi Sakuma

山形県出身、駒澤大学文学部社会学科卒業。会社員、編集者、NGOスタッフを経て、フリーライターになる。ハウツーものからルポ、インタビュー記事など、幅広く執筆活動を展開中。大学時代に学んだ心理学を生かし、心の問題や精神医療に関する取材に取り組んでいる。

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