JR西の新列車「銀河」、デザイナーが明かす魅力 割安な料金で豪華な車内、コンセプトは?

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車内にはフリースペースが至るところに設けられており、「座っているのが疲れたら車内を歩き回って欲しい」(川西氏)という狙いがある。初対面の乗客同士がフリースペースで語り合う。こんな旅の醍醐味も期待できそうだ。

一方で、長時間走るにもかかわらず食堂車はなく、JRスタッフによる販売もない。これは観光列車的な側面よりも、移動手段という本来の目的を重視したためだという。ただ4号車のフリースペースに沿線のボランティアが乗り込んで地元の料理や飲料などを販売する計画はあるようだ。

窓、座席、テーブル、カーペットのデザインなど丸い形状をしたものが車内のあちこちにあることに気づく。直線的な鉄道車両と「丸」の対比は非常にユニークだ。高級な装飾を使わなくても列車に特別感が醸し出される。これもデザインの力だ。

また、単なる見た目だけでなく、機能面も重視されている。たとえばシートの取手の形状は丸いが、突起のような新幹線の取手よりもつかみやすい。

財布に優しい長距離列車

川西氏は以前の取材で「雪月花は新車だったが、今回は既存車両の改造、制約はいろいろありそうです」と語っていた。製作費は非公表だが、JR西日本の豪華寝台列車「トワイライトエクスプレス瑞風」よりもケタ違いの低予算であることは間違いない。もっとも、寂れた駅からつねに人が集まる駅に変わった中村駅のように、与えられた条件下で事前予想を遥かに超えるものを生み出すのがプロの力だ。

通勤電車として使われていただけに、「フェイーン」というモーター音が気になる。グリーン車として使われる1、6号車はモーターがない車両だが、ほかの車両でも、モーターの点検蓋を閉じるとともに床にカーペットを敷いて騒音を最小限に抑える工夫を施した。

本来の公開予定から2カ月遅れとなったのは、車両前面の形状を微妙に改造したことで車両限界を超過したことが判明し、その修正に時間を要したからだという。外観は塗装し直しただけと思っていたら、素人目には気づかないような改造をしていたのだ。

大阪―米子間の普通車指定席を利用した場合の料金は運賃と特急料金合わせてわずか8890円(通常期)。「ななつ星」や「トワイライトエクスプレス瑞風」のような豪華観光列車には手が出ない人でも手が出る価格であり、「財布に優しい列車」という表現がぴったりだ。運行開始後の利用状況次第では、JR九州が先鞭をつけたが、銀河をきっかけにこうした長距離列車が全国に登場するようになるかもしれない。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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