岐路に立つOYO、急成長から一転「解約」へ 賃貸住宅のプラットフォーマーへの険しい道

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一連の騒動からは、OYOが当初掲げていた「頻繁な住み替え」というビジネスモデルの難しさも垣間見える。

前の入居者が退去してから次の入居者が入るまでには、必ず清掃という空白期間が発生するため、過度な住み替えは物件の稼働率を下げる。清掃期間は賃料が発生しない一方で、オーナーには毎月保証した賃料を支払うため、OYOの持ち出しは増える。幸いにして稼働率が高まっても今度は住み替え先である空室が少なくなり、顧客満足度は下がる。この点で、稼働率と顧客満足度を両立させることは一筋縄ではいかない。

サービス自体にも、テクノロジーを活用した「スマートさ」よりも「泥臭さ」が頭をもたげる。2019年12月には物件の内見サービスを開始し、一部の物件では不動産業者に手数料を払って客付けを依頼している。「『アーリーマジョリティー』に訴求するために、(彼らに馴染みのある)既存の不動産業者と同じサービスを一時的に展開している。あくまでマーケティング費用という位置づけ」(山本氏)だが、人件費などの経費を抑えてサービスの質へ還元する強みは薄まった。

「損して得取れ」の成否

難局続きのOYOだが、「長期滞在やリピーター需要もあり、ビジネスには手応えを感じている」(山本氏)としており、賃貸事業そのものが頓挫したわけではないという。賛否はあれど、猛烈な借り上げ姿勢や積極的な広告宣伝によって、OYOの認知度はほんの1年間で格段に高まった。

今後はかき集めた入居者データを武器に、「プラットフォーマーとしてのシステムをどうやって確立できるか」(山本氏)を模索する。スマホ上で手続きが完結する自社のサービスを他社物件にも適用したり、入居者の属性に応じた商品のモニタリングを行うといった余地がありそうだ。

すでにプラットフォーマー化を意識した動きもある。入居者向けに家事代行や衣服のレンタルといったサブスクリプションサービスを自由に使える「OYO PASSPORT」がそれだ。現在約100社と提携し、利用料は宣伝効果を期待するスポンサー各社が負担している。現在でも新規加盟の引き合いがあるといい、入居者のデータを提携各社と共有し、次のビジネスにつなげることも視野に入れる。

いずれにせよ、現状の賃貸事業が収益柱になることは難しく、売り上げから利益重視への転換が急務であり、「(複数の事業を展開する)ポートフォリオ運営になるだろう」(山本氏)という。本来不動産業界にとって稼ぎ頭であるはずの賃貸事業をデータ収集の手段と割り切り、吸い上げたデータで収益化を果たすという「損して得取れ」な戦略は、規模さえ追えばよかった1年目よりもはるかに難しい舵取りを迫られる。

一井 純 東洋経済 記者

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いちい じゅん / Jun Ichii

建設、不動産業の取材を経て現在は金融業界担当。銀行、信託、ファンド、金融行政などを取材。

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