山田洋次監督、「寅さんと鉄道」を語り尽くす 満男が「新幹線」に乗るのは理由がある

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――「ナメクジ」型ですね。

山田監督(左)と南正時さん(右、撮影:吉野純治)

そうそう。火がもう落ちて休んでいたのを、わざわざ火を入れてくれたんですよ。それはいいんだけど、ぴかぴかに磨いてくれちゃったんですよね。これはちょっと参りました。お召し列車みたいで迫力がない。

それと、もう一つがっくりきたのは、寅さんと松山政路君の機関助士が会話を交わして、松山君が発車の合図をする。それで、機関車が動き出すんだけれども、あの動き出すときの重々しい動輪の回り方。いっぱい荷物を積んでいるから重くなきゃいけない。ところが、撮影用に編成していた列車だから、全部空身。あっという間に走り出した。本当は1回ぐらい空回りして、空転させて、力強くゆっくりと動いてほしかったんだけど。でも一発撮りですからね。うわぁと思ったけど、まあ、しようがないかと思って。

機関士の横顔がすばらしい

――この映画でマニア受けするのは銀山を通過するシーン。寅さんが、あそこは駅だから列車が止まるだろうと思って先回りして行くと、貨物列車なので通過していくというショット。あの場所を知っている人にはたまらないです。

そう。「銀山通過!」と言うんですよね。運転室にカメラが乗り込んだのも特別なんです。普通は法的には許されないんです。そこを何とか頼み込んで。

機関士も本物です。カメラマンの高羽(哲夫)さんと後で話したんだけど、機関士の横顔を映していて、「いいねえ、この横顔は」と。一つの仕事を一生かけてずっと貫いた人には一種の精神性が出てくるというかな。高貴な顔になっていますね。

非常に高い技術に支えられて蒸気機関車は走るから、動き出すだけでもいくつも手順がある。電車だったら、ハンドルをひゅっと動かせば出ていきますが、蒸気機関車はいろんな手続きがないとスタートしないし、スピードを上げるときも非常に難しい。いったん蒸気を少し抑えてとかね。また、機関助士との連携が非常に大事だし、機関助士は機関助士で、峠に差しかかるまでにピークに持っていくという計算をしていますが、途中で空転なんかされると戻らなきゃいけない。機関士の腕がよくないと、機関助士はつらいんです。せっかく火をたいたのが無駄になる。機関車を走らせるのは難しい仕事なんです。

――『続 男はつらいよ』(1969年)では機関車を2台つないでいる重連のD51が出てきます。これは狙って撮ったのですか。

偶然です。もちろん貨物列車が通る時間は調べていますよ。それがたまたま重連だったということです。

――重連は1日1本しかなくて、SLマニアが必ず狙っていました。

そうだ! みんな「すげぇ、すげぇ」って言っていたのを思い出した。

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