山田洋次監督、「寅さんと鉄道」を語り尽くす 満男が「新幹線」に乗るのは理由がある
――『寅次郎恋歌』(1971年)では、高梁の武家屋敷の土塀の横をSLが黒煙を上げて走っていますね。その後、同じ高梁でロケをされた『口笛を吹く寅次郎』(1983年)で同じカットが出てきて、そこを最新型の特急電車があっという間に通過する。時代の流れを感じました。
そうか、ちゃんとそれを見てくれたんだ。わかる人はわかるんですね。最近の特急電車って日本の町には似合わないですよ。特に新幹線。変なロケットみたいなのが日本の風景の中を突っ走るのは、どう考えてもおかしいと思うな。なぜもっと日本の景色に似合うデザイン、似合う色にしないのかと思いますよ。
ローカル線に寅さんが乗っている列車の撮影をするんですけど、ときどき列車に観光客向けに漫画を描いてあったりして、これは全然絵にならない。そんな風景を邪魔するような、とんちんかんな列車に寅さんは乗らないですよ。
あとは、日本の駅のホームは地面から高い位置にありますね。だから、ホームからすっと列車に乗れます。でも、欧米ではホームが低いから階段を上って列車に乗らなきゃいけない。たとえば『昼下りの情事』(1957年)では、最後にベニスの駅を列車が出て行く。オードリー・ヘップバーンが追っかけて、ゲーリー・クーパーが手を伸ばして、さあっと引っ張り上げる。ホームとの間に高さがあるから、ああいう芝居になるわけです。あるいは列車を追っかけていけるんですね、いつまでも。
もう一つは、蒸気機関車というのはそう簡単に加速がつかない。ゆっくりゆっくり走り出す。だから、いつまでも追っかけて、さよなら、さよならとできたんですけど、新幹線はすうっとスピードが出るから、1分後にはかなりの速度になる。それは僕も何度も経験しましたね。
満男の恋と新幹線の関係
――『寅次郎の休日』(1990年)の甥の満男と後藤久美子の新幹線のシーンですね。
これから九州に行くゴクミについて行きたくて、満男がぱあっと乗り込んじゃう。そしてドアがシュッと閉まる。それから動き出して徳永英明さんの歌が始まる。でもね、1番を歌い終わる頃にはもう新橋近くになっちゃう。速いなあと思いましたね。
――満男の恋と寅さんの恋の違いでもありますね。
そう。すうっと行っちゃうのと、ゆっくりゆっくり、「さよなら、さよなら」といつまでも言える恋とは違うんです。
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