ソニーがエンタメで描く「2020年の事業プラン」 吉田CEOが掲げた「人に近付く」コンセプト
実はアメリカの人気テレビ番組「シャークタンク」の2018年シーズンでは、どこまでCGセットかを気づかれないかを試すため、シーンごとに本物のセットとCGセットを入れ替えながら編集したのだそうだ
「リアリティだけならば、コンピューターグラフィックスを描くレイトレーシング(光線追跡法)などで現実には存在しないセットをコンピューター上で作ればいい。しかしレイトレーシングは多くの計算量が必要です。バーチャルセットなら、ずっと安価に運用できるうえ、フルCGと同じようにカメラ位置や動きの制約もない」(勝本氏)
「すべてリアルタイム」が競争力の源泉だ
このバーチャルセットの技術の究極の目的は“リアルタイム処理”だ。
勝本氏は「レイトレーシングなどのフルCGはコストが高い」と話していた。ここで言うコストには、もちろん制作費の意味もあるが、制作費の大元でもある“時間”である。時間というコストは、業務プロセスにおいてもエンターテインメントを制作するうえでも、可能な限り制約がないほうがいい。
「バーチャルセットは、われわれが取り組んでいることの一例でしかありません。映画制作という切り口で考えたときの答えがバーチャルセット。その基本はリアルタイム処理にこそ、競争力の源泉があるという考え方です」(勝本氏)
そう話す勝本氏の本音はスケールの大きさが競争力の源泉であるクラウドへのアンチテーゼなのだと解釈した。純粋に技術力、あるいはコンテンツを生み出す創造力で勝負できるよう切り口を変えることで、ソニーらしい戦い方ができる。
「ネットワークの規模でスケールするクラウドに時代、“クラウドの中で熟成させて高品位を得る”というやり方が定着し、いろいろな価値が生み出されています。しかし、ソニーはバーチャルセットの例にもあるように、現実の風景やモノをデジタルデータとして取り込み、そこにリアルタイムに現実(人物や乗り物など)を溶け込ませるといった技術を将来的には実現し、エンターテインメントへと活用していくというビジョンを持っています」(勝本氏)
こうしたビジョンは将来はPlayStationのビジネスにもつながっていく考え方だ。クラウドを活用したゲーミング環境が産声を上げ、市場が立ち上がろうとしているが、あくまでもエンターテインメントを生み出してユーザーが体験しているのはリアルタイムで展開する場である。
映像制作にしても、インタラクティブなゲームなどのコンテンツも、そしておそらくは音楽に関しても“リアルタイム“でのエンターテインメント価値を生み出すことに向いている。
ソニーが展開する3Dオーディオの一種である360 Reality Audioや音のVRと呼ばれる空間音響技術 Sonic Surf VR(SSVR)なども、全体を見渡した場合、ゴールへと向かう過程で部分的に表出しているものと言えるかもしれない。
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