新たに浮上した中村哲医師を襲った「真犯人」 「水利権」に巻き込まれたとの見方も

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両者以外にも、アフガン国内にはイスラム過激派が存在し、それらの犯行である可能性ももちろん排除できない。だが、犯人像が絞り切れない中、浮上しているのが、中村医師が地元の水利権に巻き込まれたという見方だ。「中村医師の事業に不満を感じる勢力がいたようだ」と、あるナンガルハル州政府関係者は打ち明ける。

中村医師の業績の1つが、パキスタンからアフガンを流れるクナル川から用水路を引いて、アフガン東部ガンベリ砂漠を緑化した事業だ。

流水量に不満を持った人も

地元民放トロニュース(電子版)によると、中村医師はクナル川に大小のダムを建設したほか、一帯で1500カ所以上の井戸を掘削。クナル川からガンベリ地域に至る全長約25.5キロの用水路建設を主導した。砂漠はみるみる緑化され、ナンガルハル州の65万人を潤したという。中村医師が現在携わっていたのも、この用水路の第2期工事だ。

前出の州政府関係者によると、中村医師によって地域の緑化が進む一方、一部住民からは川の流れの変化や、川の流水量減少について不満の声が上がったという。ここで留意したいのは、実際に流水量が減ったかは、定かではない点だ。そう感じる人たちがいた、ということだ。

イギリスのBBC放送(ダリー語電子版)は州政府のミヤキル知事の事件後の発言として、「彼(中村医師)の水関連の仕事に理由がある」と報じた。ミヤキル氏は武装グループの詳細については触れていないが、犯人像を示唆する発言だ。イスラム過激派の犯行という見方は示していない。

アフガン東部一帯は内戦状態の継続や、2000年以降深刻化した干ばつの影響で荒廃が進み、水の確保は重要さを増している。もし一帯で「流れが変わった」「水が減った」などと感じる事態が起きていたのならば、それは殺人の動機となりうる。

州政府や警察には「中村医師が襲撃される」との情報が繰り返し寄せられており、中村医師本人にも伝達されていた。最近では事件の約1カ月前にも情報があったという。中村医師は危険情報があるにもかかわらず、信念のもとで灌漑作業を継続し、銃弾に倒れたことになる。

中村医師の遺体は9日に故郷・福岡に到着したが、ガニ大統領が自らひつぎを担いでその死を悼むなど、地域に多大な貢献をしたことに異論はない。「英雄の死」の真相解明が待たれる。

浅野 貴志 ジャーナリスト

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Takashi Asano

新聞社で南アジア、東南アジアに駐在。幅広くアジア情勢をフォロー

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