旭化成が米医薬買収、その「目利き力」は本物か 1400億円を投じ、狙うは「第2のゾール」

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旭化成が今回の買収で期待するのは“ゾール・メディカルの再現”だ。ゾール社は、旭化成が2012年に1800億円を投じて買収したアメリカの医療機器メーカー。AED(自動体外式除細動器)などの心肺蘇生関連機器を手がけ、買収当時はアメリカのナスダック市場に上場していた。

9年前に買収したゾール社は急成長

ゾール社は当時すでに年間600億円近い売上高があり、営業利益で50億円以上(金額は現在の為替で円換算)を稼ぐ黒字会社だったが、機関投資家やアナリストからは、「心肺蘇生機器にさほど成長性があるとは思えない。典型的な高値づかみだ」と厳しい声が続出。ゾール社買収の発表翌日、旭化成の株価は一時、前日終値より6%下落したほどだった。

それから9年を経た今、ゾール社は旭化成グループのヘルスケア部門の柱だ。昨年度の円換算売上高は1807億円と買収前の3倍超、営業利益は7倍の350億円超にまで成長。旭化成の連結決算上はのれん代償却などで100億円以上が差し引かれるが、それでも昨年度の営業利益貢献額は234億円に上り、ヘルスケア部門の利益の過半を占めた(上図)。

ゾール社の急成長を牽引したのは、着用型の自動除細動器「ライフベスト」。心臓突然死のリスクを抱えた患者が日常生活で着用するもので、機器が着用患者の心電図を常時監視・解析し、心臓の動きに異常を察知したら自動的に電気ショックを与えて正常に戻す。

ゾール社の成長を牽引するライフベスト(写真:旭化成)

買収した当時、着用型除細動器は世界でゾール社だけの独自製品だった。その可能性に目をつけた旭化成は、同社買収後にライフベスト専任の営業担当者を大幅に増員。全米の医師の間で製品に対する理解が深まり、使用患者の大幅な増加につながった。

今回買収するベロキシス社は現在、人員数が限られるため、全米で約200の高度医療施設にターゲットを絞って営業活動を行っている。旭化成は買収後にその営業体制を強化して現地での販路を広げる一方、エンバーサスのアメリカ以外での展開も検討している。

「今の旭化成グループはマテリアルと住宅が経営の大きな柱。医薬と医療機器を軸にヘルスケア領域をもっと成長させ、早期に隆々たる第3の柱にしたい。(その結果として)グローバルなヘルスケア・カンパニーになるのが1つの目標だ」。小堀社長は会見の席上、将来に向けた抱負をそう話した。

当然、その目標を実現するには、買収するベロキシス社が思惑通りに成長してくれることが大前提。はたして、ゾール社に続いて、今回の買収も大成功となるか。旭化成の目利き力が本物かどうか試される。

渡辺 清治 東洋経済 記者
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