リニア静岡問題、JR東海の「挽回策」はなぜ失敗? 他地域では進む工事、「次の一手」はあるか
全長14.5kmの日吉トンネルのうち、公開されたのは全長7.4kmの南垣外(みなみがいと)工区。トンネル本線は、山岳トンネルの工事でよく使われるNATM(ナトム)工法で掘削が行われている。1日およそ6mのペースで掘削が進んでいるという。現場周辺にはウラン鉱の存在も確認されているが、JR東海は「ウラン鉱を避けて掘削している。目下のところ基準値を超えたものは出ていない」とする。
トンネルから地上に出ると工事ヤードがあり、土砂の仮置き場が設けられている。発生土をすぐにベルトコンベアで運ぶのではなく、仮置き場で発生土の重金属含有量を毎日チェックして、基準値を超えていた場合は、環境影響対策を施した遮水タイプの別の仮置き場に運ぶ。現時点で、基準値を超えた発生土は約1万㎥あり、行政から許可を受けた専門業者を通じて処理をしているという。
また、全長約2kmのベルトコンベアが設置され、トンネル内の発生土を発生土置き場まで運搬する。通常なら発生土はダンプで運ぶが、「住民の皆様との話し合いの中で、騒音・振動や一般交通への影響を避けるためにベルトコンベアも活用してダンプの台数を削減することが決まった」とJR東海・岐阜工事事務所多治見分室の加藤覚室長が説明する。
個別交渉拒否のカラクリ
日吉トンネルは地元住民との話し合いが無事まとまり、工事も順調に進んでいる。神奈川県駅の工事もいよいよ始まる。
こうした状況を見ると、難工事であり一刻も早く着工する必要があるはずの静岡工区だけが手付かずという異常ぶりが際立つ。
さて、大井川流域の市町に面談を申し込んだJR東海はどうなったか。結論を先に言うと、静岡市を除く8市2町は会談を拒否した。
11月19日の記者会見で、川勝知事は、「8市2町、全会一致というのはすごいことです」「僕は正直感動しました」と8市2町の対応を手放しで称賛した。この件に県が関与しているのかという質問に対して、川勝知事は「まったくありません」と答えている。
そもそも、県や8市2町が参加する大井川利水関係協議会では、JR東海との交渉は県が行うと決定している。従って、もしこの決定が変更されていないのであれば8市2町がJR東海と個別交渉しないのは当然ということになる。その点で、確かに県は関与していないのだろう。地元テレビ局の情報番組で、掛川市の松井三郎市長や島田市の染谷絹代市長が「JR東海の説明を聞きたい」という趣旨の発言をしている様子が報じられたが、今回拒否した理由も協議会の決定に従った結果だと考えれば納得がいく。
地元と交渉してはどうかとも聞こえる川勝知事の「誘い」に乗って面談を申し込み、地元から門前払いを食らう結果に終わったJR東海。対して、川勝知事は静岡市の回答をなかったことにして、「全会一致でJR東海との面談を拒否したのは地元の不信感の表れ」という印象を作り出すことに成功した。川勝知事が一枚上手だった。
11月22日の神奈川県駅起工式後に金子社長、黒岩知事、本村市長らの記者会見が行われたが、質問は静岡県の水問題に集中した。
金子社長は「地元の皆様のご心配に対しては、”心配ないんですよ”ということをしっかりと説明したい」と述べ、8市2町と面談したいとの思いをにじませた。
本村市長に「川勝知事に会ったら何を話すか」と質問したところ、「“水の問題が重要であることは承知しているが、(リニアは)国家プロジェクトとして重要なので、ぜひご理解いただきたい”とお伝えしたい」と、金子社長を側面支援した。
川勝知事の強気の姿勢の背後には、「水問題は重要だ」と考える県民の支持がある。事態を打開するためには、JR東海は各地域で工事が環境に配慮して行われていることを実例として示すしかないし、静岡県以外のリニア沿線の各自治体も知恵を絞る必要がある。そして、何よりも金子社長と川勝知事が直接面談して、とことん議論することも必要なのではないか。
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