中小企業向けモラトリアム問題、楽観的な劇薬投与は過剰な副作用を生む
それほど企業相互に不信感が強まっている局面において、ある企業が返済猶予を受けるといううわさが広まった場合、金融面の支援はあっても、仕入先などの取引企業との間では、「危ない企業」という見方が強まって、かえって当該企業の取引条件悪化が助長されかねない面がある。そこをいかにクリアするのか。
さらに金融市場への影響も気になる。与党議員の中には「元本返済のみならず、利払いも猶予すべきだ」という主張もある。しかし、利払いまでストップすると、銀行の期間利益が失われるだけでなく、中小企業向け貸出債権を原債権として組成された証券化商品、複合商品のキャッシュフローが喪失、減少するという事態すら発生しかねない。
劇薬投与の認識を
アメリカの金融危機は、証券化商品に組み込んだサブプライムローン債権などの不良化によって、キャッシュフローが消えたことで、一挙に証券化市場がマヒし、市場機能が停止するというパターンで進化した。
利払いまで返済猶予となれば、その広がり方次第で日本版サブプライム危機となる危うさがある。利払いまでの返済猶予とするのはあまりにも代償が大きすぎる。
そもそも中小企業金融では、中小企業の経営基盤(資本基盤)の脆弱性や決算内容の不透明さという問題点も指摘されてきた。そうした中で、金融機関は「経常単名」と呼ばれる3カ月間の短期貸し付けでベタ貸しし、事実上の元本返済猶予貸し付けとしてきた歴史がある。元本返済猶予の貸し付けとは、劣後性債務(=準資本)とほぼ同義であり、その実行によって中小企業の資本基盤の脆弱性が補完されたといえる。
しかし、この慣行は「期日に返済としない邦銀のルーズなリスク管理」「邦銀の資産は不透明」という批判を外銀から受けて、その後見直された。