英語のつづりと発音が違う意外な「歴史的事情」 なぜ「オペンホーセ」と読まないのか

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まず、大母音推移は具体的にどういう影響をもたらしたのでしょうか。その昔、「感じる」の「Feel 」は「フェーレ」と発音されていました。それがいつの間にか「フィール」になりました。

日本においても地域によって同じ単語の発音が違う(いわゆるなまる)ことがあると思いますが、地域や時代とともに徐々に発音がなまってゆくのは英語においても同じです。同じくTakeは「ターケ」であったものが「テイク」になり、Homeは「ホーメ」であったものが「ホーム」になるなど、われわれは500年ほど前の人とはまったく違う英語を話すようになりました。これが大母音推移というわけです。

日本語の発音も変化している

説明し始めるときりがなくなるので詳しくはネットでググっていただくのがいいかと思いますが、日本語と同様、英語にも発音を決める母音「アイウエオ」があります。その母音の「ア」が「エ」に変化し、その結果もともとの「エ」は「イ」になり、さらに「イ」は「エイ」となり、「オ」は「ウ」というように、音の発音がずれてしまったわけです。

少し発音記号を使って解説すると以下のようになります。

西暦1400年代 西暦1500年代 西暦1600年代 現代英語
i ei ℇi ai Bite
e i i i Meet
e i Meat
a a ei Mate
u ou ɔu au Out
o u u u Boot
ɔ ɔ ɔo əo Boat

(図表:Outはオート、オウト、〈アとオの中間を経て〉アウトになっています)

日本語でこれをイメージすると、「エノコログサ(通称:猫じゃらし)」という植物があります。これは「イヌコログサ」という意味の名前で、かつてイヌではなくエノと発音していたのではないかと思います。

それが時とともにエがイになり、ノ(NO)のオがウになったので、現代語ではエノがイヌになった、しかし植物の名前としては昔の発音が残っているというようなものです。ちなみに鳥取県の西部などでは今でも犬のことをエノと発音しています。

日本語においても母音の変化というものは過去に起きています。上代、つまり奈良時代ごろに日本語は「アイウエオ」の5音ではなく、8つの母音によって発音されていたことがわかっています。例えば、同じ「き」を表すはずの万葉仮名に、ある単語には「岐」を用い、違う単語には「記」を用いる、その2つは決して混用されることはない、つまり奈良時代ごろの人は2種類の「き」という音を使い分けていた、というものです。

江戸時代の国学者本居宣長もこのことに気がついていましたが、20世紀になって橋本進吉先生によって体系的な説明がなされ「上代特殊仮名遣い」と命名されました。

「こんなことを知って何の役に立つの?」。はいはい。文法嫌いの人からそんな声が聞こえてきそうですが、実はこの大発見は、歴史認識に重大な影響を及ぼしました。

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