トヨタ「エスティマ」が生産終了を迫られた理由 一世を風靡したミニバンの「苦悩と末路」

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初代エスティマは、斬新なワンボックスカーとして登場した。キャッチコピーは「天才タマゴ」で、その言葉どおり楕円形の卵のような外観デザインが、まず人々を驚かせた。その姿は、21世紀の到来を前にした、未来を予感させるものでもあった。

さらには、大きく湾曲したダッシュボードなどの室内造形によって、あたかも宇宙船に乗船したのではないかと思わせる特別な空間を味わわせた。

初代「エスティマ」のインテリア(写真:トヨタ自動車)

そうした空間を実現するため、ワンボックスカーの構造的特徴である前席下に搭載されるエンジンを横に傾け、床を低くすることを行った。通常は直立しているエンジンを横へ傾けるには、潤滑や冷却などさまざまな課題解決が必要で、1台のワンボックスカーのために特注エンジンを開発したところに、バブル経済期の原価に対する余裕を感じることができる。

そこまで思い切った構造を採ることにより、外観も室内もこれまで見たことのないワンボックスカーが出来上がり、エスティマは一気に人気車種となった。

「ルシーダ/エミーナ」の追加で一世を風靡

しかし、当時はまた少なかった3ナンバーサイズのボディーを持っていたころから、必ずしも多くの消費者の手に届くクルマではなかった。それでもエスティマへの憧れは強く、結局5ナンバー仕様の「ルシーダ/エミーナ」と呼ばれる車種が追加されたのである。「一世を風靡する」という言葉が、まさに当てはまるクルマであった。

次の2代目から、車体前側にエンジンを搭載する現代的なミニバン方式の構造に変更された。それは、1994年にホンダから登場した「オデッセイ」の影響を受けたからだと言える。また、厳しさを増した衝突安全基準に対し、ワンボックスに比べミニバンのほうが前面衝突における衝撃吸収を確保しやすかったこともある。

ミニバン方式を採用しても、初代エスティマの造形は受け継がれた。一目でエスティマであることがわかるその姿は、3代目も同様だ。そして、ほかにない姿形がエスティマの長い人気を支える1つの魅力となった。

エスティマの人気を支えたのは外観だけでなく、ミニバンとしていち早くハイブリッド車を追加したこともあるに違いない。

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