「のれん代」が減損する失敗M&Aの特徴は何か 買収パターンを4分類し、減損要因を分析した

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ここまでは、「何を買うか?」の話だったが、実は、のれんの減損は、「どう買うか?」も影響していることがわかっている。

子会社化に至るには、最初から50%超を取得する方法(以下、「マジョリティー取得」)と、段階的に出資を行い、結果として50%超を取得していく方法がある。買収する際に、案件の不確実性や資金都合上の理由で、マジョリティー出資を躊躇し、最初はマイノリティー出資を行い、様子をうかがいつつ、うまく軌道に乗りそうであれば追加取得をし、マジョリティー取得しようと考えたことはないだろうか。

確かに、一見理にかなっていそうではある。徐々に良好な関係性を構築し、双方の理解が高まった段階で子会社化するという方法は、いかにも柔軟でリスクが低いアプローチのようだ。しかし、結果は、海外M&Aにおける減損発生率は、「当初からマジョリティー取得」よりも「段階取得でマジョリティー取得」の方が高かった(なお、国内M&Aについては、分析対象となるサンプルが少なかったため、分析対象外とした)。

段階取得を行った海外M&Aのうち、減損対象M&Aに該当する5件について、各々の発生原因の詳細を探ったところ、過半出資後のPMIがうまくいかず減損したと推察される事例が散見された。実際に、海外M&Aを数多く手掛けてきた企業にインタビューしたところ、段階取得で子会社化したほうが、子会社化する際のガバナンスの設計と実践が難しいとの声が多く上がった。

段階取得の場合は、初めがマイノリティー出資のため、買い手が対象企業の事業内容に大きくは口出ししにくい。そこから段階取得で子会社化したとしても、よほどの事情がない限り、親会社の言うことを急に聞くようになるわけがないのだ。

段階取得もリスキーな手法といえる

また、企業インタビューからは、「全社戦略に基づき、将来的に過半数を買収する予定でマイノリティー出資を始めてしまった場合、マイノリティー出資中にあまり優良な投資先ではなかったとわかっても、後に引けずに追加取得し、過半出資後やはり思うようにいかなかった」というケースも意外と多いとわかった。回収できないサンクコスト(埋没費用)にもかかわらず、損切りできずに、そのまま投資してしまう「塩漬け」と近い内容だ。

加えて、マイノリティー出資期間が長いと、子会社として検討する際のデューデリジェンス(投資する企業の価値やリスクを精査すること)が甘くなってしまうこともあるようだ。中には、段階取得で子会社化する場合は、デューデリジェンスらしいことをまったくしなかったという企業もいた。

しかしながら、子会社化して初めてわかることも多い。マイノリティー出資期間では得られなかった情報も、子会社化した後では得られるようになるからだ。そして、そういった情報はネガティブなもので、買収後に発覚される。

M&Aは、あらゆる要因が絡み合うので、M&Aの成否の原因は特定しがたい。また本研究結果は分析対象のサンプル数が少ない部分もあるため、企業インタビューの定性情報と合わせて捉える必要はある。

のれんの減損は、ほとんどの方が「失敗」と認めやすい事象のため、それを切り口に、買収時の留意点を考察した。今後、買収を検討する企業にとってはのれんの減損を回避するうえで、多くの示唆を得られるのではないだろうか。

田中 大貴 M&A戦略コンサルタント、MAVIS PARTNERS 代表取締役

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たなか だいき / Daiki Tanaka

早稲田大学商学部卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社、その後、ジェネックスパートナーズ、マーバルパートナーズ(現PwCアドバイザリーのDeals Strategy部門)、ベイカレント・コンサルティングのM&A Strategy部門長を経て現職。一般社団法人ポストM&A研究会 代表理事、グロービス経営大学院にてファイナンス講師も務める。

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