金融機関の「ライフプラン表」は信用できるか 「将来のお金」についてどう考えればいいのか

拡大
縮小

家計の収支に関していえば、今の状況が今後10年、20年続いたとして、健全な収支を続けられるかどうかを検証すること、すなわち現在の状況を未来に投影することです。だからプロジェクションなのです。さらにいえば、状況が変化していないかを定期的に見直すことも大事で、予測不能な変化が起きた場合は、それに合わせて収支の見通しも変えていく必要があります。

最近では、このようなシミュレーションツールとしてさまざまなアプリやソフトがありますが、私はこういうツールはあまり役に立つとは思っていません。

なぜなら、こういうツールは入力して結果のみがアウトプットされるような仕組みになっているからです。もちろん簡単だからこそ、誰もが使えて便利だというのはそのとおりですが、大事なのは「結果」ではなくて「プロセス」です。

私自身の経験からいえば、こういうアプリやソフトを使うと、出てきた結果の数値を絶対視しかねません。でも将来のキャッシュフローは変わっていくのが当然ですから、絶対視するのは危険です。むしろ簡単なエクセル程度でよいので、自分でさまざまなデータをそろえて手入力でやってみるほうが、自分で考えるにはずっと役に立ちます。

金融機関の営業員やFPが作成したライフプランシミュレーションを盲目的に信用するのはあまりお勧めしません。私も定年前に将来の自分の収支や日々のお金の出入りを毎日エクセルで入力し、チェックするということをやりました。結果の数字だけではなく、プロセスも頭に入っているので、見直す場合はどこをどう修正すべきかが容易にできます。

大ざっぱに試算し、定期的に見直していく

ただ、そういうことをするのは手間がかかりますので、あまり精緻なものを作る必要はありません。自分で考えて手作りでもシミュレーションをするのであれば、試算はざっくりでよいのです。精緻なものを作ってしまうと、一生懸命作ったがゆえに、その結果を絶対視しかねないからです。

今後の状況の変化に応じて柔軟に対応するためにも、アバウトなものでよいので、大ざっぱにつかんでおくことが大切です。細かい数字合わせは不要です。大体いくらぐらいという程度がわかれば、それで十分なのです。

人生においては予期せぬことはいくらでも起きます。「子どもが医大に合格して多額の学費が必要になった」「親が倒れて介護生活が始まった」、というような支出増の場合もある一方で、相続によって思いがけずお金が入ってくるといった収入増の場合もあるでしょう。それまで考えてきたキャッシュフローが一挙にひっくり返ってしまうような出来事が起きるかもしれません。

だからこそ、定期的に見直しすることが必要です。理想をいえば、1年に1回、年末か年始にするのがよいのですが、面倒ならそれほど頻繁にしなくても3年か5年に1度ぐらいでも十分だと思います。

繰り返しになりますが、ライフプランシミュレーション自体が悪いわけではありませんし、不要なものとは思いません。ただ、安易にシミュレーションの結果を信じるのではなく、自分で作ってみて、自分で見直すというプロセスが大切であるということを忘れないでいただきたいと思います。

大江 英樹 経済コラムニスト、オフィス・リベルタス代表

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

おおえ ひでき / Hideki Oe

大手証券会社で25年間にわたって個人の資産運用業務に従事。確定拠出年金ビジネスに携わってきた業界の草分け的存在。日本での導入第1号であるすかいらーくや、トヨタ自動車などの導入にあたりコンサルティングを担当。2003年から大手証券グループの確定拠出年金部長などを務める。独立後は「サラリーマンが退職後、幸せな生活を送れるよう支援する」という信念のもと、経済やおカネの知識を伝える活動を行う。CFP、日本証券アナリスト協会検定会員。主な著書に『自分で年金をつくる最高の方法』(日本地域社会研究所)、『知らないと損する 経済とおかねの超基本1年生』(東洋経済新報社)などがある。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
マーケットの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT