親の介護問題から目を背け続けた56歳男の後悔 悩みは仕事との両立や金銭、夫婦関係にも及ぶ
父は入居直後、ほかの入居者とけんかするなどトラブルが続いた。息子の斉藤さんを父の弟の名で呼び、「家に帰りたい」と訴えたこともあった。「父は不本意だったと思うが、施設に入った以上、そこで生活しなければと我慢させたのでは」(斉藤さん)。
入居から2年が経とうという頃、認知症初期の険しい表情がなくなり、徐々に食が細くなっていった。ある日、会いにいくと、父は「もう、いいよな」とつぶやいた。それからはほぼ食事をせず、1カ月後に亡くなった。
斉藤さんは父の介護をこう振り返る。「突然、介護が自分事になったと感じたが、実際にはじわじわと始まっていたはず。怖いからギリギリになるまで目をつぶっていた。父の変化から目を背けず、希望を聞き、元気な頃から家族で話し合いをしていればよかった」。
半数近くが仕事との両立に悩み
『週刊東洋経済』は10月21日発売号で「介護大全」を特集。介護経験者のリアルな声をもとに、介護の資金繰りやサービス、施設選びなど、悩みや不安の解消策を検証した。
同号ではメールマガジンを通して、親の介護に関するアンケート調査を実施(3640人が回答)。そこで現在、親を介護している人に苦労を尋ねたところ、精神的、身体的な負担が大きいと答えた人が多かったほか、半数近くが仕事との両立に悩んでいることがわかった。
また介護未経験者に将来の介護の不安を聞くと、6割以上が費用面への不安があると回答。さらに仕事との両立、家族の役割分担への心配も大きいことが明らかになった。
アンケートには、親の介護に直面した人たちの切実な声が寄せられた。とくに多かったのが、在宅介護や遠隔介護の悩み。身体面や精神面の負担以外にも、時間のやりくりや実家までの交通費など、現実的な課題を多く抱えることがわかった。5年間、東京と岐阜で遠距離介護を続けた自営業の男性は、「平日に働く日数が半分に減り、収入は大きく落ちこんだ。でも今親孝行しないでいつするかという気持ちで続けた」と振り返る。