世界の建築業界の巨人、日本の鉄道を変えるか サラグラダファミリアなど実績は多数

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同社が日本に進出したのは1989年。東京事務所を開設して、日本の建築業界での実績を積み上げていったが、小栗代表は、外国人社員と話をしているうちに、ふと気がついた。鉄道メーカーや鉄道事業者が海外進出する際、安全基準や商習慣が日本とはまったく違い、日本での知見が通用しない。この外国人社員は日本の鉄道関連メーカーに勤務した経験があり、日本の企業が海外展開で苦戦する状況を肌身で感じていたのだ。

アラップ東京事務所の小栗代表(撮影:尾形文繁)

海外ビジネスに伴う煩雑な手続きをアラップが引き受ければ、メーカーのリスクが減ると同時に利益率が改善する。「海外展開を希望する企業を支援する手伝いができるはず」。小栗代表は確信し、2018年9月に鉄道チームを立ち上げた。

それだけではない。日本企業が海外に進出するのと同様に、外国企業も日本市場への参入をもくろんでいる。日本とEUの経済連携協定(EPA)が今年2月に成立し、EU側からみた日本の鉄道市場の参入障壁が撤廃された。日本の鉄道会社の間で海外企業から調達しようという機運が高まれば、鉄道会社が入札要綱や仕様書を作成する際にアラップにサポートを依頼することもありえる。

さらに、アラップがHS1など海外で行っているような新規路線計画のコンサルティングを日本で行うという可能性もあるだろう。小栗社長は、「もしチャンスがあれば、遠慮なくやらせていただきたい」と前向きの姿勢だ。

鉄道業界の「黒船」になるか

何もかも自前でやろうとする結果、海外展開で苦戦する例は鉄道以外の多くの業界で見られる。入札要綱や仕様書の作成といった煩雑な業務をアラップのような外国企業にアウトソーシングするという選択肢はありえるだろう。

また、鉄道関連メーカーと比べれば、鉄道事業者が本業の鉄道で海外展開する例はJR東日本などごくわずかだ。大半の鉄道事業者が「海外での鉄道事業は時期尚早」として躊躇しているが、アラップのような外国企業と日常的に付き合うことで、日本ではなじみのない海外の流儀をいくつも学ぶことができる。海外進出とまではいかなくても、国内の鉄道ビジネスの改善につながるアイデアが得られる可能性はある。

静かにスタートしたアラップの日本の鉄道業界への進出は、将来に振り返ってみると、「黒船」のようなインパクトを持っているかもしれない。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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