「20代はとにかくキャリアを積んで、ただの主婦になった姉に差をつけてやろうと思っていました」
恋愛よりも仕事を優先させる生活。26歳から4年付き合ってきた同い歳の恋人に29歳のときにプロポーズされたが、結婚したら仕事が思い切りできなくなる気がして、それに答えることができなかった。
「今から考えれば浅はかでした。彼よりも、もっとスペックのいい人が現れると思っていたんですから」
33歳のときに「もう誰もいない」
恋人と別れてからは、ゆるい婚活を始めた。独身の友達と婚活パーティーや出会い系の居酒屋やバーなどに、時間があると通うようになった。
「そういう場に出向いていくと、一流会社に勤めている男性はすぐに名刺をくださるんですよね。で、連絡先を交換するんですが、1、2度食事をすると終わってしまう。付き合うようになっても、3カ月程度しか続かない。そうこうしているうちに33歳になっていました」
このままでは、まずい。浮ついた出会いではなく、地に足をつけて本当に結婚できる相手を探さなくては。そう思い、改めて自分の周りにいる独身男性を今一度掘り起こしてみた。
「そうしたら大学時代の友人、会社関係の人、すてきだなと思う人は、みんな結婚していた。20代の頃とは、明らかに周りの景色が変わっていました。そのときに“ああ、私は出遅れたんだな”というのを痛感しました。急に焦り出しましたが、遅すぎました」
そんなときに出会ったのが、1週間前に振られた6つ下の昭一だった。
昭一と出会ったのは、佐知子が一人暮らしをしていたアパートの近くにある居酒屋だ。そこは、女店主の手料理が食べられる小さな店なのだが、地元の人たちが集まる憩いの場になっていた。また、世話好きの女店主が、男女のお客さんの仲を取り持ってくれることでも有名だった。
「さっちゃん、彼、年下だけど、どう? 会社もしっかりしているし、結婚するにはいいんじゃない? もう30も半ばになったら、なるべく若い人と結婚したほうがいいわよ。40過ぎの人と結婚したら、子どもが成人する前に働き手になる父親が定年になっちゃう。彼、『自分は口下手だから、年下よりも年上の女性のほうがいい』って、この間言っていたの」
カウンターの隅で1人黙々と焼肉定食を食べていた昭一に目配せをしながら言った。その日はあいさつをした程度だったが、その後、「今、彼がお店に来たから、ちょっと飲みにきたら?」と連絡をもらったり、彼にもそんなはからいをしたりしていたようで、店で会う回数も増え、仲良くなっていった。
そして、ある夜、したたかに酔っ払った昭一が佐知子を送ってくれた。アパートの前で抱きしめられ、キスをされ、「部屋に行きたい」という彼をそのまま招き入れ、その夜、男女の関係になった。
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