「幼い頃から、私のほうが姉よりも運動も勉強もできたんです。小学校の運動会で走れば1番だし、テストの成績もよかった。そんな私を姉は気に食わなかったんだと思います」
兄弟姉妹げんかはどこの家庭でもするものだが、姉からされることはイジメに近かった。佐知子が昼寝をしていたときに、貴美枝がかんでいたガムを髪の毛にべったりとなすりつけられたり、飲んでいた牛乳を突然頭からかけられたり、大事にしていたリスのぬいぐるみの足の一部をハサミで切り取られたり……。
「そのたびに父や母にものすごく叱られるんです。そうすると私は父や母の陰に隠れる。親を味方につけるのが姉にとってはさらに腹立たしかったのでしょうね。ただ私も成長とともに、いつしか姉を負かしてやりたいと思うようになりました」
中学生になると、その思いはさらに強くなった。
「2人とも地元の公立中学校に進学をしました。中学になると、中間や期末テストの順位が出ますよね。私は学年でも10番以内。姉は、後ろから数えたほうが早い順位。夕食で家族が顔を合わせたときに、『今回のテストは、○番だったよ』と得意げに言う。悔しそうにしている姉の顔を見るのが気持ちよくて、ただひたすら勉強を頑張っていました」
エスカレートするイジメを両親に訴えると…
そんな状況の中で、姉のイジメもどんどんエスカレートしていったという。
「中2の2学期、英語の時間に教科書を開いたら、ページの所々がカッターで切り刻まれていた。悔しくて授業中だったけれど、泣いてしまいました」
家に帰ってきて、母親にそれを告げた。すると母親は、貴美枝を呼びつけて怒るどころか、佐知子になだめるような口調で言った。
「それは、嫌な思いをしたね。最近貴美枝は受験のプレッシャーもあって、荒れているでしょう? お父さんとお母さんもどう扱ったらいいものか、悩んでいるの。今あの子を叱ってばかりいると、心がすさんでいくし勉強もしなくなる。大きな気持ちで包んであげようと話したの。教科書はすぐに新しいものを注文するから、待っていてね」
そう言っただけで、姉を特別叱ることはなかった。また、中1の頃は、姉の前で勉強ができる佐知子を手放しで褒めてくれた両親だったが、いつしか姉の前で勉強ができることを褒めることもなくなった。
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