日本一予約が取れない美容師、高木琢也の凄み 「不器用でカットが上手いわけでもなかった」

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だけど、そんな下っ端の俺にも「高木にシャンプーしてもらいたい」とか「高木のブローが好き」ってお客さまがつきました。いつか辞めようと思っているのに、1週間後には俺のシャンプーを指名してくれる人がいる。その人に黙っていなくなるなんて、裏切りだし筋が通らないなって思っていたら、辞められなくなりました(笑)

そのうち「俺に会いに来てくれるお客さまは、どうしたらもっと満足してくれるんだろう?」と考えるようになりました。それでよくよく周りを観察してみると、美容師のどうでもいい世間話とか、無難な提案、余計な気遣いが多いんじゃないかってことに気付いて。

だって、お客さまが俺らに求めているものは、過剰なサービスでもお世辞でもなく、「満足できる髪型にしてもらうこと」なはずです。もちろん、美容師に髪型を提案してもらいたい人もいるし、無難な髪型を求めてる方もいるので、「一人一人異なる、満足のいく髪型」を目指したいなと。だからその人にとって無駄なことは一切排除するために、「そのお客さまが求めている髪型と対応を、出会って5秒で判断できるようになろう」と思いました。

それからは、この人はどんなことを求めるお客さまなんだろう、どういうことをされると嬉しいのかなって、「人」を知るためのデータ集めを始めました。自分のお客さまだけじゃなくて、隣の席の会話を聞いたり、他のスタイリストのカラーやブローもどんどん手伝って、「人のデータ」を集めていったんです。

何百人、何千人のお客さまのパターンを覚えていくと、会った瞬間にその人のパーソナリティーが分かるようになりました。そうすると無駄な会話ややりとりも減っていくので、どんどん切るスピードも早くなるし、どれだけお客さんが増えても仕事のクオリティーを維持することができたんです。

始めは目の前のお客さまを満足させるために始めたことが、結果的に俺の信条だった「速くて質の高いサービス」を実現させることになりました。その時に「俺の仕事は、日本一の美容室に入ることでも、小手先のテクニックを磨くことでもなくて、目の前のお客さまを満足させることなんだ」と気付いたんです。

しかも、目の前のお客さまが「今までの美容室でここが一番良かった!」って思ってくれたら、その方が広告塔になって、周りの友だちが新しく来てくれるようになりますから。そうやってお客さまが増えてくれた結果、俺は今1カ月で900人の髪を切っています。たった一人、目の前のお客さまを満足させることが、実は日本一への一番の近道だったんですよね。

小手先のテクニックはいらない、周りの人を大事にしろ

よくうちの若手に「高木さんみたいになるにはどうすればいいですか」なんて聞かれたりするんですけど、俺はカット技術とかテクニックより「友だちを大事にする」、「関わった人たちを大切にする」ことが一番重要だって言っています。

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