トランプはアメリカ初の罷免大統領になるのか 「ウクライナゲート」で弾劾調査開始の波紋

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トランプ氏は、大統領選に向けて「バイデンの息子問題」についてさまざまな疑惑を追及することが想定される。同問題は2016年大統領選における「ヒラリーのメール問題」のバイデン版となりかねない。トランプ大統領がバイデン前副大統領を批判し、それに対抗して他の民主党議員などがバイデン氏の擁護にまわることによって、予備選ではバイデン氏に候補者としての注目が高まることが想定される。

一方で、バイデン氏に対する批判が共和党そして保守系メディアで連日繰り返されることによって、ネガティブなイメージが定着してしまうリスクもある。「勝てる候補」としての印象が崩れ予備選への影響もありうる。仮に本選に進んだ場合も、バイデン氏が大統領選勝利に必要となる中道派の支持を確保することが難しくなるかもしれない。

共和党議員も多数動かすような新事実が出てくるか

弾劾・罷免は憲法上、「反逆、収賄、または他の重罪や軽罪」を根拠として議会が判断を下すこととなっている。だが、最終的には議員が判断するため、政治の影響が及ぶ。退任予定の議員など一部を除けば、議員は自らの再選に有利なように、地元の支持者の声を反映して票を投じることとなる。現在、共和党議員と大統領の支持者はほぼ一致する。仮に大統領が選挙での支持基盤まで失えば、上院でも罷免され、首が飛ぶことは間違いない。

なお、20世紀の弾劾手続き2回は、リチャード・ニクソン大統領、ビル・クリントン大統領のいずれの場合も、2期目に入ってからであり、国民が選挙で大統領を変える選択肢がなかった。だが、トランプ氏はまだ1期目で、来年11月には大統領選を控えることからも、議会でなく国民が判断すべきとの声が世論で高まる可能性もある。仮にトランプ氏が選挙前に罷免されるか、または辞任した場合は、ペンス副大統領が大統領に昇格し、2020年に加え2024年も大統領選に出馬する権利が与えられる。

現在、「ウクライナゲート」の急速な展開によって、ホワイトハウスはパニック状態に陥っているともいわれている。「ウクライナゲート」に対して、ホワイトハウスでは「作戦室(War Room)」を設けることも検討しているという。

アメリカ史上、下院弾劾後に上院で罷免された公職者は最高裁判所判事1人を含む8人の裁判官のみであり、大統領では誰もいない。トランプ氏は大統領としてアメリカ史上初めて罷免されるのであろうか。今日の2極化した社会の下で、大統領に対する反発が超党派で高まるかどうかは、今後、新事実が出てくるかどうか次第で、予断を許さない。だが、上院共和党の団結を決壊させることは容易ではない。現時点で確かなのは弾劾・罷免をめぐってアメリカ政治の混乱が当面は続くことだ。

渡辺 亮司 米州住友商事会社ワシントン事務所 調査部長

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わたなべ りょうじ / Ryoji Watanabe

慶応義塾大学(総合政策学部)卒業。ハーバード大学ケネディ行政大学院(行政学修士)修了。同大学院卒業時にLucius N. Littauerフェロー賞受賞。松下電器産業(現パナソニック)CIS中近東アフリカ本部、日本貿易振興機構(JETRO)海外調査部、政治リスク調査会社ユーラシア・グループを経て、2013年より米州住友商事会社。2020年より同社ワシントン事務所調査部長。研究・専門分野はアメリカおよび中南米諸国の政治経済情勢、通商政策など。産業動向も調査。著書に『米国通商政策リスクと対米投資・貿易』(共著、文眞堂)。

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