フレームワークに頼りすぎる人が見落とす視点 マーケティング戦略を考える上で重要なこと
しかし1991年に缶入りの「カルピスウォーター」が発売され、カルピスの理想的な濃さがわかると同時に、缶入りのため、屋外でも気軽に飲めるようになり、カルピスは再び成長期を迎えた。はたして1990年の時点で、カルピスは製品ライフサイクルのどの時期にいたと言えるのだろうか?
また日本のウィスキーは、2008年ごろには停滞・減少しており、成熟期だと思われていた。しかし2009年に缶入りハイボールが発売され、テレビ広告も当たり、市場は成長し始めた。
その結果、ハイボールが売れすぎて、原酒が足りなくなる事態となった。カルピスと同様、飲み方を変えることによって、ウィスキーはよみがえったのである(図表)。
製品ライフサイクルも、その商品がなくなって初めて、ある時点でどこにいたかが事後的にわかるものである。
また製品ライフサイクルでしばしば間違うのは、市場はすでに成長期なのに、自社にとっては新製品なので導入期の戦略を採ってしまうことである。製品ライフサイクル論は、あくまで市場から考える理論なのである。
競争業者の類型
「土俵が変われば、リーダーも変わる」。 トヨタ自動車にもマツダにも共通するよい戦略というものはない。セブン‐イレブンにもミニストップにも共通するよい戦略もない。業界のポジション、保有する経営資源などによって、望ましい戦略は異なっている。 フィリップ・コトラーは競争業者の類型を、リーダー、チャレンジャー、ニッチャー、フォロワーの4つに分類したが、その基準はシェアの大きさを基準とした曖昧なものであった。
そこで嶋口充輝は、その4つを2つの軸でより明確に位置づけた。それは相対的経営資源の質と量という2つの軸であり、図表のように、競争業者を4つに位置づけた。
経営資源の量も質も高い企業をリーダーと呼ぶ。日本の生命保険業界で言えば日本生命、化粧品業界で言えば資生堂である。
次に、経営資源の量は多いが、質でリーダーを追いかけている企業をチャレンジャーと呼ぶ。日本の生保では、第一生命、明治安田生命、化粧品では花王(カネボウ)である。
また経営資源の質は高いが量が少ない企業を、ニッチャーと呼ぶ。生保では独自性を特長としてきたソニー生命、ライフネット生命などがあげられ、化粧品では、高級スキンケアに強いアルビオン、オイルフリー化粧品のオルビスなどが該当する。 最後に、量・質共にリーダーとは差がある企業をフォロワーと呼ぶ。日本の生保では、中堅のフルライン企業がこれに該当し、化粧品では、小規模の化粧品会社・訪問販売会社がこれにあたる。
この4つの類型は、どれが良い、どれが悪いということではなく、各類型に応じた戦略定石があることが重要である(嶋口 1986)。 リーダーは、①周辺需要拡大(市場のパイを広げる)、②同質化(物真似)、③非価格対応(低価格競争に追随しない)、④最適シェア維持(利益率最大になるシェアを獲る)の4つが戦略定石と言われている。
一方、チャレンジャーは、リーダーが追随できない差別化、ニッチャーは、限られた市場でのミニ・リーダー戦略が定石である。例えば、生保ではニッチャーにあたる大同生命は、ターゲットを中小企業経営者に絞って、そこでリーダー戦略を採っている。 最後にフォロワーは、事業を進めながら資源蓄積に努め、今後チャレンジャーかニッチャーに転身していくのがいいと言われている。
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