日経平均株価2万円は岩盤でも鉄板でもない 機械が作る「トランポリン相場」が終わるとき

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さて、述べてきたように、米中貿易交渉の行方や世界的な企業行動の委縮など、世界の投資環境は株価に逆風であり、世界経済・企業収益の悪化基調が続いていることも踏まえると、日本の株価も、上下動を交えながら傾向は下向きだと懸念される。

「日経平均2万円」は決して岩盤ではない

こうした株価が下落していくとの見解に対し、「結果として」(「たまたま」と言っても良い)日経平均株価が現物指数としては(時間外の先物は別として)2万円を割れていないため、2万円程度に相当するPBR(株価純資産倍率)1倍の水準は「岩盤だ」との主張をよく聞く。

確かに理屈の上では、PBRが1倍を割れていることは、企業の発行済み株式を全て買い占めるのに必要な金額(=時価総額)より、それにより手に入る企業の純資産価値の方が多いことを意味するため、経済的には不合理だ。だから1倍割れの可能性は低い、という主張だと理解している。

ところが過去現実に、PBRが1倍を大きく割れたことがある。たとえば2009年3月には、日経平均の実績PBR(加重平均ベース)が0.81倍を記録し、2012年6月にも0.87倍に達した。しかも、1倍を割れていた期間は短期ではない。たとえば2011年と2012年の大半は、PBRが1倍を下回っていた。

「PBR1倍が岩盤だ」と称する向きは、こうした過去の事実を知らないのか、知らないふりをしているのか、「当時はPBRが1倍を割れても構わなかったが、現在は割れる可能性は乏しい」という理論武装をしているのかについて、筆者は全く関心がない。

だが、過去に実際に起こったことが、また足元で起こっても、何の不思議もないだろう。筆者は日経平均株価が1万6000円程度に下落する可能性が高いと見込んでいる。BPS(1株当たり純資産)が変わらないという前提を置けば、1万6000円水準はPBR0.8倍程度に相当する。

加えて、外貨安・円高が進めば、日本企業の外貨建て純資産は、円への換算額が目減りし、円建てのBPSは減少する。日本企業の連結純資産に占める外貨建ての比率は不明だが、さほど高くないとは推察する。それでも円高の進行は、PBRで見た日経平均の下値メドを一段と低くしそうだ。

こうした株価下落の流れを想定しつつも、今週、一気に株価が下落するかどうかは不透明だ。総合的に勘案して、今週の日経平均のレンジは2万円~2万800円を見込む。

馬渕 治好 ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト

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まぶち はるよし / Haruyoshi Mabuchi

1981年東京大学理学部数学科卒、1988年米国マサチューセッツ工科大学経営科学大学院(MIT Sloan School of Management)修士課程修了。(旧)日興証券グループで、主に調査部門を歴任。2004年8月~2008年12月は、日興コーディアル証券国際市場分析部長を務めた。2009年1月に独立、現在ブーケ・ド・フルーレット代表。内外諸国の経済・政治・投資家動向を踏まえ、株式、債券、為替、主要な商品市場の分析を行う。データや裏付け取材に基づく分析内容を、投資初心者にもわかりやすく解説することで定評がある。各地での講演や、マスコミ出演、新聞・雑誌等への寄稿も多い。著作に『投資の鉄人』(共著、日本経済新聞出版社)や『株への投資力を鍛える』(東洋経済新報社)『ゼロからわかる 時事問題とマーケットの深い関係』(金融財政事情研究会)、『勝率9割の投資セオリーは存在するか』(東洋経済新報社)などがある。有料メールマガジン 馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」なども刊行中。

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