日本人は医療費増大の本質をわかっていない 抑制狙うなら効果的な予防を推進すべきだ
戦後の日本人の平均寿命は約50歳程度だったのが、現在は女性が87歳、男性が81歳。世界で最も平均寿命が長い国となりました。これは日本の医療がその目的である健康を改善するということに「成功」したからにほかなりませんが、結果として医療費が膨れあがったというわけです。しかし、繰り返しになりますが、現在の医療費の増大は、成功の裏返しでもある。成功したからこそ課題に日本は挑んでいるという状況なのです。
そして、医療費そのものの増加だけではなく、経済とのバランスが重要であることも指摘しておきたいと思います。日本の医療費の増加率は他の先進国と比較して、高いわけではありません。新しい薬が開発されたり、ロボット手術が可能になったり医療はどんどん高度化しますので、医療費は増加していくのが自然です。ここで重要なのは、国として、全体の何パーセントくらいを医療費に支出できるのかという「経済力」の観点です。
家計に例えてみれば、毎年支払う医療費が上昇したとしても、所得が同じだけ増加すれば、医療費負担が重いと感じることはないでしょう。つまり、日本の医療費の問題は、医療費そのものの問題というよりも、日本経済が成長していないことにあると多くの医療経済学者は考えています。
2000年代に入り、欧米諸国が平均的に2%前後でコンスタントに経済成長を続けている間、日本はバブル崩壊後、総じて低成長を続け、「失われた20年」などといわれることもあります。日本の課題の特殊性は、まさにここにあります。
現在の制度は「時代遅れ」
山本 雄士(以下、山本):私は、現在の社会保障制度は持続可能だが、将来に向けてのリスクはある状況だと考えています。リスクというのは、よく言われる財源の問題よりも、現在の制度が「時代遅れ」になってしまっているということにあります。人間の健康に例えると、若い時は好きなように食べても大丈夫だったけれども、年を取ってくると若いときと同じ食習慣ではメタボになってしまう、というのと同じで、現在の社会保障制度は時代に合ったものに変えていく必要があります。
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