「新型タント」に乗って感じたN-BOXとの違い 走りや乗り心地にどのような特徴があるのか

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もう1つは、走りの流れだ。N-BOXでは、ブレーキング・コーナーリング・コーナーからの立ち上がりという、走りの流れが明確にわかるが、タントではそこまでの走りの流れは感じられず、あくまでも安心安全第一という走りに思える。この差は、基本設計に加えて走行実験による味付けの差だと思う。

このような、N-BOXとの走りの差を、ダイハツは重々承知している。N-BOXの得意領域には踏み込まないことで、N-BOXとの差別化を明確にしている。

この差は、商品性と原価に対するダイハツとホンダの企業方針としての差である。試乗の前後で、各部門のダイハツ社員と意見交換をしたが、総じて「N-BOXとは別の方向性」という声が聞かれた。

タントという商品は「生活用品」という位置付けをぶれさせないこと。これがダイハツの考え方だ。さらに「しっかりと利益を出す」ことが、企業として当然の姿勢である。

高コストのN-BOXの行方

一方、N-BOXについて、ダイハツの見立ては「クルマとしての存在感が強い」。この言葉を筆者なりに換言すると「走りの追求度合いが強い」となる。

ゼロベースで開発した新型タントのプラットフォームとボディの技術展示(筆者撮影)

さらに、筆者からダイハツ社員らにN-BOXについて補足したのは、ホンダの原価の高コストという点だ。ホンダは他社に比べて利益率が低く、とくに軽についてはN-BOXが爆発的に売れているのに超薄利という経営実態であることをホンダ自身が公表している。

そのうえで、2019年4月1日に本田技術研究所の大幅な組織改編を行うなどして、研究開発費の見直しを進めている。筆者は、7月3日に埼玉県和光市で開催された一部メディア向けの新技術説明会「ホンダミーティング」に参加し、同社の八郷社長や役員らと意見交換したが、高コスト体制について真剣にメスを入れると明言した。そうなると、はたして次期N-BOXはどうなるのか。 

そうしたホンダのお家事情がどうであれ、タントはタントとしての道を進む。スーパーハイト系軽の購入を考える消費者としては、新型タントとN-BOXを比較するのは当然だろう。だが、それらを世に送り出すメーカー側としては「タントとN-BOXは別物」という意識を持っていることを、消費者は理解しておくべきだと思う。

桃田 健史 ジャーナリスト

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ももた けんじ / Kenji Momota

桐蔭学園中学校・高等学校、東海大学工学部動力機械工学科卒業。
専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。海外モーターショーなどテレビ解説。近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラファイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

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