アスクル社長解任劇、「主謀者」は存在したのか 前社長の保身か、それとも支配株主の横暴?
しかし、総会直前にアスクルが明らかにしたところによると、昨年12月に宮内社長とソフトバンクの榛葉淳副社長、ヤフーの川邊社長と小澤隆生常務(アスクルの社外取締役を兼任)が協議し、「ロハコをアスクルから分社化する方向でアスクルに申し入れる」ことにしたはずである。
この点について、5日の会見で宮内社長は「ヤフーとは毎週、『シナジーミーティング』を行っている。アスクルとヤフーとの協業を強化したらどうかという話はあったが、すでに45%持っているのに『わざわざアスクルからロハコを分離して…』という話が出たかといえば、確信をもって記憶にない」と語った。「ロハコをヤフーに吸収するとか、ロハコをアスクルから分離するという話はなかったのか」と念を押されると、「はい」と応じた。
そして、「ロハコは前期92億円の赤字でした。他社のことなので詳しく述べるわけにはいかないが、マスコミの皆さん、アスクルの実態をもっと調べられたらいかがですか。もっと(アスクルやロハコ事業の)業績をみてください。(アスクル解任劇には)事業を伸ばす大義があったのではないか。半年くらい経ったらそれが証明されてくると思いますよ」と語りかけた。
2012年の第三者増資が法改正のきっかけに
岩田前社長のことを古くから知る関係者がみると、今回の騒動には既視感が漂う。2012年、発行済み株式数の74%に当たる新株をヤフーへ第三者で割り当て、株式は大きく希薄化した。
その結果、「当時、岩田社長は大株主から解任される見込みだったが、ヤフーへの巨額増資で大株主の持ち分を希薄化し、解任をのがれた」(関係者)という。
他社でも同様に大きく希薄化する事態が起き、「10%以上の議決権がある株主が増資に反対した時は株主総会で承認を得なければならない」という新ルールが会社法に盛り込まれるきっかけとなった。
総会2日前の7月31日にヤフーはアスクルの株主総会への意見を公表。その中で「上場企業のアスクルの経営の独立性を尊重することと、株主の議決権行使とは全く次元の異なる問題であり、岩田社長による主張は(中略)保身のために自身の社長続投を正当化しようとするものに他なりません」と指摘している。
前述の関係者も「『岩田社長の保身』というヤフーの指摘はその通り。第三者増資でヤフーから得た330億円はロハコの赤字拡大ですでに潰えているのだからその責任を問われて当然だ。後継者を育ててこなかったことにも『保身』は現れている」と手厳しい。
2012年の巨額増資と違い、今回は業務・資本提携時の契約に盛り込まれている「売り渡し請求権」を盾に、岩田前社長は抵抗しようとした。売り渡し請求権は、両社の提携関係が壊れたと判断したら、アスクルはヤフーから自社株を買い戻せるというもの。だが、「ヤフーから資本提携解消を否定しない意思表示があった」として、請求権発動を決議する8月1日の取締役会は前日になって延期された。この時点で岩田前社長の解任は決定的となった。
今回の騒動が岩田前社長の保身だったとしたら、社長解任の主謀者は岩田前社長の想像の産物にすぎず、そもそも存在しなかった可能性が出てくる。記者会見で岩田前社長が「ジャーナリストの正義感に感謝する」と繰り返すのを聞いて、違和感のようなものを感じた記者は少なくないだろう。「ジャーナリストの正義感」はロハコの赤字から目をそらす、岩田前社長の保身の隠れ蓑にされたのだろうか。
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