韓国の若者が「確実で小さい幸せ」を求める理由

先端的なトレンドと古い慣習の「落差」

婚約者のいるB君は、嫁姑問題は自分や周囲には存在しないと言うものの、結婚については別の不安があると言います。

「家や子どもへの出費を考えると怖いですね。彼女とはちゃんと話していませんが、僕自身に子どもを作る気はありません。いくつか選択肢がある中で子どもを作らないというよりも、教育費がものすごく高いという状況からして、そうせざるをえないんです」(B君)

また、Dさんに交際相手はいませんが、周囲には「結婚すると女が損をするから」という理由で結婚したくないという友達もいるそうです。

「韓国社会は男性主導です。男が仕事をして稼いで、女が家を守る。女は仕事をしても、結婚したら仕事を中断して子育てをしなければならない。仕事を辞めないにしても、産休・育休を取ったときの社内の男性からの視線が痛いという話はよく聞きます。韓国では働く女性がぶち当たる壁が多いんですよ」(Dさん)

村上春樹の「小確幸」を求める韓国の若者

この2月に発表された韓国の合計特殊出生率は0.98と、1970年以来初めて1を割り込みました。これは、少子化が叫ばれながらも同1.42(2018年度)である日本よりずっと少ない値であり、韓国国内では大きな社会問題になっています。ただ、今回のヒアリングで判明した就職や結婚に際しての経済的不安、子どもを産む主体たる女性が社会で虐げられている状況などからすれば、この低い出生率には合点が行くのではないでしょうか。

ヒアリングの中で、A君が印象的なことを話していました。彼は村上春樹が韓国の若者に読まれている理由として、村上がエッセイの中で提示した「小確幸(しょうかっこう、韓国では“そうはくへん”と発音)」という造語の示すライフスタイルが、韓国の若者の気分にぴったり合っているというのです。

「小確幸」は文字通り、「小さいけれど確かな幸せ」という意味です。

韓国の若者たちは長らく、「一流大学・一流企業に入らなければ勝ち組になれない」という社会的な脅迫の中で厳しい競争にさらされてきました。

また、物価はどんどん上がるも給料がそれに追いつかず、経済的な不安にもさいなまれています。そんな苦しい状況下では、従来型の価値観に基づいた経済的な成功を達成するのはとても難しく、それができるのはほんの一握りのエリートだけ。まさしく、前回の冒頭で説明した「ヘル朝鮮(チョソン)=地獄の韓国」です。

「小確幸」は地獄の苦しみの中で生きる韓国の若者たちが抱く、最後の希望なのかもしれません。世間的な名声や他人に誇示する財力、つまり“大きな幸せ”ではなく、ささやかではあっても自分だけが感じられる、確実な“小さな幸せ”を求めたい。そんな心の叫びが「小確幸」という言葉に集約されているのではないでしょうか。

(構成:稲田豊史)

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