孤独死した40代男性の部屋に見た周囲との断絶 ふとしたきっかけで誰にでも起こりうる
塩田さんが遺品整理をしていると、路上ライブを行っていた男性のものと思われる写真や自作のCDが次々と出てきた。部屋の片隅には、有名アーティストと男性とのツーショットの写真もあった。おそらくリスペクトしていたアーティストだったのだろう。男性は、はち切れんばかりの笑顔に溢れていた。タンスの上には、そのアーティストの楽譜が丁寧に飾られていた。
男性の両親に話を聞くと、アーティストになりたいという夢を持った息子に、「お前なんか出ていけ!」と父親は激しく怒鳴りつけたという。
その直後から男性は家を出ざるをえなくなり、アルバイトをしながら、一人暮らしを始めるようになる。
母親は、厳格な父親の目を盗んで、こっそりと知人に頼んで男性の路上ライブで投げ銭をしてもらっていたらしい。しかし、息子の家を訪ねることはなく、生活状況はまったく知らなかった。
男性はしばらくアーティストになる夢を追いながら、さまざまなアルバイトをして食いつないでいた。しかし、それもうまくいかずに精神的に追い詰められ、次第に家にひきこもるようになる。部屋の中は徐々に荒れ果てていき、不摂生な食生活を送るようになり、セルフネグレクト状態になっていく。
行政に助けを求めようとしたが力尽き…
何年か前のコンビニ弁当のプラスチックや、カップラーメンの食べ残しが乱雑に放置してあったことから、男性が一人暮らしを始めてから数年以上にわたって不摂生な食生活を送っていたことは明らかだった。ベッドの周囲にはゲームや、ビデオやDVDが乱雑に積まれていた。
「故人様は夢と現実の間で苦しみ、家にひきこもるようになったのでしょう。親に勘当されたこともあって、どんなつらい状況になっても親を頼ることはできなかった。そして、うつ病になってしまったようです。たった1人、孤独の中でとても寂しい思いをしていたのかもしれない。遺品の中には、生活保護に関する書類があったので、身体の調子が悪く、最後は行政に助けを求めようとしたのかもしれません」
男性は厳格な父親を恐れてか、最後まで両親に病気のことは告げなかった。父親に家を追い出されたこともあり、家族に助けを求めることはできなかったのだろう。
夢破れた結果、周囲から孤立し、もはや自分の窮状を話せる相手は誰もいなくなった。そして、自暴自棄になり、その孤独感は自らの命を脅かすほどに大きくなった。私は、亡くなるまで追い詰められた男性を思うと胸が痛くなった。彼はたった1人で自分自身の苦しみと戦い続け、最後の最後で誰かに助けを求めようとしたが、それさえかなわなかったのだ。孤独死する人々は、SOSを発することができず、崩れ落ちるように命を閉じていく。
そしてそこには、完全に無縁社会と化したいびつな日本社会の現実がある。その数、年間3万人――。近年、30代や40代を含む現役世代の孤独死が数多く発生しているが、遺体は警察によって手際よく運び出され、年々増加する特殊清掃業者が部屋を元どおりにする。そして彼らは「何事もなかったように」忘れ去られる。
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