IMF「ドルは過大評価」でドル円はどう動くか トランプ流は「売り介入」でなく「FRBたたき」

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少なくとも、①為替政策報告書で「監視リスト」対象国を批判する論拠を失うこと、②ECBを筆頭に各国から報復介入の恐れがあることという2つの理由から、介入は現実的ではない。このうち、やはり①は大きいと思われる。

周知のとおり、アメリカ財務省が運用する「監視リスト」掲載条件の1つは「一方的かつ継続的な外貨買い為替介入を行い、それがGDPの2%以上かつ過去12カ月のうち6カ月間で実施されていること」である。しかも、今年5月に出たばかりの報告書で「8カ月間」が「6カ月間」に短縮され、その基準を一段と厳格化したばかりだ。もちろん「一方的かつ継続的」でなく威嚇射撃のようにワンショットの介入を運用しようとする可能性もゼロとはいえないが、他国の通貨・金融政策にまつわる不公正を非難しているアメリカが最大の禁忌である為替介入合戦の口火を切るとは考えられない。

そのような決断に出れば米中貿易交渉でもアメリカの立場はきまりの悪いものになってしまうだろう。ちなみに、アメリカがドル売り為替介入に踏み込む場合は、財務省の管轄する為替安定化基金(ESF:Exchange Stabilization Fund)が使われると思われるが、上述のIMF報告書が発表された18日にはムニューシン財務長官が既存の運用方針について変更はない(通貨安誘導に使うつもりではなく市場変動の抑制に使用する)とわざわざ認識を示している。

FRBのハト派化を受けて1ドル=100円割れも

また、②についても言うまでもないだろう。ユーロを例に取れば、ドイツ以外の多くの加盟国がユーロの割高感を訴えている現状がある。米国が介入に踏み切れば、ECB(欧州中央銀行)に対して同様の政策措置を取るように、EU首脳会議やユーロ圏財務相会合(ユーログループ)が圧力を強めることは目に見えている。これに抗しきれるほど今のECBに政治資源があるとは筆者は思わない。ただでさえ11月以降は政治家出身の正副総裁が運営する中央銀行になることに不安があるのだ。

アメリカが為替介入に踏み切れば、ECBに限らず、通貨安を成長の起点としたい新興国も同様に動くだろう。近隣窮乏化策の応酬という不毛な局面を自ら招くようなことはトランプ政権としてもしたくないはずだ。先述の通り、ドルが過大評価であることは各種定量分析が示すところではあるが、その修正はアメリカ財務省による為替介入ではなくFRB(米連邦準備制度理事会)の金融政策のハト派傾斜によって順当に進んでいくと考えてよい。

上記のようなドル高認識に加え、過去5年はほとんど調整なくドル高相場が続いてきたことや、ドル円相場が年明け以降わずか8円程度しか動いていないことなどを思えば、FRBが今後1年で3回の利下げを行うと仮定した場合、1ドル100円割れを望む展開があってもさほど驚きではない。

※本記事は個人的見解であり、筆者の所属組織とは無関係です。

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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