異色の「自転車列車」、愛好者と育てる手作り感 房総に人を呼び込む「B.B.BASE」の秘密

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車内には、B.B.BASE専任のクルーが乗務している。JRから委託を受けた外部スタッフで、房総地域の観光や、自転車についての豊富な知識を有している。往路の車内では、おすすめコースを紹介するブリーフィングが行われるが、ここで紹介されるコースはすべてクルーによる手作り。復路の車内で「南風が強く、向かい風で大変だった」と言われれば、翌日の運行ではその情報を注意事項として盛り込むといった具合に、乗客からの聞き取りによって毎回細かくアップデートされている。

フラワーライン沿いの海岸をサイクリング。面倒な「輪行」をしなくても、自分の自転車で本格的なサイクリングができるのは大きな魅力だ(筆者撮影)

「案内担当の車掌が乗務していないので、車内保安要員としてのほか、車内でも楽しんでいただけるよう配置しました。単に観光案内だけでなく、自転車の知識が豊富なクルーと契約して、現地で自転車にトラブルが生じた場合も対応できるようにしています」(利渉氏)

【2019年7月19日12時10分 追記】記事初出時、利渉氏の発言内容に誤りがありましたので、上記のように修正しました。

この結果、B.B.BASEはJR東日本の観光列車としては異例とも言えるほど、手作り感覚にあふれた商品になっている。1日サイクリングを楽しみ、帰りの列車に乗車すると、サービスやサイクリングコースについてのアンケートが配られる。通常ならアンケートは回収されて終わりだが、B.B.BASEは内容を確認したクルーが乗客のもとを訪れ、質問に回答したり、より詳しい情報について尋ねたりする。これが「みんなで作る列車」という空気を生み出し、熱心なリピーターの獲得につながっている。

「オープンソース」の観光列車

乗客自ら新たなサイクリングコースにチャレンジし、フィードバックしてくれるケースも多い。一度参加した乗客が、「面白かったから」と別の仲間や初心者を連れて来るケースもある。また、地域の広域連携も当初の想定以上に広がっている。元は千葉県限定の企画だったが、佐原コースの設定をきっかけに、近年は茨城県との連携も進んでいる。

サイクリスト専用の列車と思われがちなB.B.BASEだが、その実態は、乗客とクルーが一緒になってコンテンツを日々成長させていく、言わば「オープンソース」の観光列車だ。自転車を持っていなくても、両国駅で自転車を借りることができるので(要予約)、この夏、暑さ対策をして参加してみてはいかがだろうか。

栗原 景 ジャーナリスト

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くりはら・かげり / Kageri Kurihara

1971年東京生まれ。出版社勤務を経て2001年独立。旅と鉄道、韓国をテーマに取材・執筆。著書に『新幹線の車窓から~東海道新幹線編』(メディアファクトリー)、『国鉄時代の貨物列車を知ろう』(実業之日本社)等。

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