山本太郎に見える田中角栄との意外な共通点 「中島岳志×プチ鹿島」対談後編
鹿島:じゃあ、枝野幸男さんと組めますね! マトリクスの位置も似ていますし。
中島:小渕さんと枝野さんは、見えないマグマでつながっているのかもしれない。人間は理知的なもので生きているわけではないので、そういった情念はバカにできません。
「アーウー」の大平、「論破」の安倍
鹿島:今の政権はⅣの部分に集中していますので、小渕さんと野田さん的なものは自民党ではあまりスポットライトを浴びないでしょうね。
中島:小渕さんや野田さんのような多様な人材がいるのは、昔の自民党が偉かったからです。
野田さんが初当選した1990年代自民党の総裁は河野洋平、宮澤喜一といったⅡのゾーンの「保守本流」の人たちが自民党の中心にいた。小渕さんの父、小渕恵三も保守本流の中心にいた人物です。
鹿島:枝野さんが宏池会のパーティーで、「宏池会がしっかりしないと僕たちが保守本流を取りに行きますよ」と宣言したなんて話もありますよね。立憲民主党ができたとき、枝野さんは「保守」を名乗っていて、「えっ!」という反応が多かったですが、僕はかなり納得しました。
田中角栄さんから続いた社会のリスクを引き受けるような保守本流は、今の自民党にほとんどいませんから、欲している有権者も多いはずです。公共事業が多いため利益誘導につながるという難点はありますが、そこをクリアにするなら需要も多いでしょう。
中島:実は田中角栄さんはⅠの要素もある人です。でもこの時代の自民党には大平正芳さんもいた。この時代の自民党が僕はいちばん好きです。
中卒の田中さんと、一橋大学から大蔵省に入った超エリートの大平さんが手を組んでいた。大平さんは自分のつかめない大衆の心をつかむ田中さんを認め、田中さんは学歴があり読書家で世界的なビジョンを持っている大平さんを認めていた。だからこそ2人で組んだ。これがあの頃の保守本流です。
田中角栄さんが「中国と国交正常化するぞ」と決めると、大平さんは環太平洋構想を作ってアメリカとの関係性を維持しながら、中国との関係をソフトランディングさせた。この2人がペアになって、中国との新しい関係を作り上げていったわけです。それが今の自民党にはいない。一方で野党は理知的な人たちばかりで、大衆的な何かが足りない。
鹿島:言っていることは正しいけれど、一緒に飲んだほうが楽しいのは麻生さんや森喜朗さんだと思う人も多いでしょうね。半径5メートル以内の人を気持ちよくさせる「また先生! そんなこと言って!」というようなコミュニケーションが、従来の自民党の強さで、保守のいいところですよね。人の情というか、懐に入り込んでくる。よくも悪くも「人たらし政治」です。