韓国の諜報活動に迫った映画「工作」のリアル度 北朝鮮に潜入した工作員の実話を基に映画化

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その後も『悪いやつら』『群盗』といった話題作を発表してきたユン監督だが、韓国の情報機関「安全企画部」について調べていた際、黒金星の存在を知り、それがこの作品のきっかけとなったという。

韓国映画界を牽引するトップ俳優のファン・ジョンミンが主演を務める ©2018 CJ ENM CORPORATION ALL RIGHTS RESERVED

南北で起こったスパイ戦の実態を初めて本格的に描いた作品ということで、製作陣はリアリティーにこだわった。「映画がはじまってから40分くらい経ったところで平壌に入るが、観客の緊張感、集中力を壊してはいけないと思い、最大限にリアルな平壌の姿を描こうと努力した」とユン監督は語る。

そして、「韓国籍を持つわれわれ韓国人は、世界で唯一、北朝鮮には行けない民族だ。北朝鮮で撮影することができないため、さまざまな方法で平壌に見えるようプロダクションデザインやセットを組んだ。

北に関する資料などは韓国国内外にたくさんあるし、脱北者もたくさんいるので考証自体は難しいことではなかった。しかし、それをどう具現化するかが大変だった」と振り返る。

多くの資料や証言を基に当時の北朝鮮を忠実に再現

本作の大きな山場の1つが、黒金星と金正日の対面シーンとなる。秘密のベールに包まれていた金正日の別荘を、北朝鮮の建築様式の特徴を生かしながら、可能な限り再現させたセットは4カ月かけて制作したものだという。

また、金正日の生前の姿を忠実に再現した特殊メイクは『メン・イン・ブラック3』『アイ・アム・レジェンド』といったハリウッド映画を手がけたチームが担当。キャスティング段階からニューヨークと韓国と密に連絡を取り合いながら、8カ月かけて修正作業を行ったという。そうしたスタッフの丁寧な仕事ぶりが、これらの緊迫したシーンにつながっている。

元は1つの国だった韓国と北朝鮮は、イデオロギーの違いのために、同胞でありながらも対立せざるをえなくなった。本作の主人公となる黒金星もリ所長も、そうした複雑なアイデンティティーを抱えた者同士だ。だが、2人は互いの立場を乗り越えて、少しずつ相手を認めていくようになる。そんな極限状態における男たちの姿に、思わず胸が熱くなる。

壬生 智裕 映画ライター

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みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

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