チケット不正転売が厳しく禁じられた真の意味 自由経済活動でもあり創意工夫も必要だ
大前提として、自由主義経済においては、モノを安く仕入れて市場で高く売るというのは、極めて合理的な経済活動である。このことは、株式や不動産の取引市場が合法的に存在していることからも明らかである。ましてや、イベントチケットのような生活必需品とはいえない物品の取引を法律で規制することは、よほど高次の政策的な理由でもない限り、およそ妥当ではないのである。
今回、法整備を急がれた背景には、やはり東京オリンピックを控えているということが大きいのだろう。
イベントチケットにおいても、インターネットの発達によって、遠く離れた見知らぬ人同士の間でも、チケットの需給を効率的にマッチングできるようになったことによって、社会全体の効用を増加させていることは事実である。そう考えれば、基本的に技術革新によって生まれた利便性を損なうような規制を設けることは、社会経済的には原則として行うべきではないのである。
2016年8月には、多くの著名アーティストが連名する形で「私たちは音楽の未来を奪う高額転売に反対します」という訴えを各全国紙に掲載したことが話題となった。
アーティストや興行側からすれば、自分たちとはまったく関係のない転売業者が、転売で利益を上げていることを許せないのは感情としてはよくわかる。
そして現実的に、音楽業界はCDを含む楽曲の販売から、ライブ収益やグッズ販売に重点を置く形にビジネスモデルが変わっており、ファンがチケット購入により多くの金額を払うことを余儀なくされれば、グッズを買う余裕がなくなり、結果的に収益に大きな影響が出てしまうことも確かである。
規制を強化するだけでは根本的な解決にならない
しかし、それはあくまで間接的な結果であり、チケット転売業者がアーティストや興行側の利益をかすめ取っているわけではない。そもそもあるチケットにプレミアムがついて10万円でも買う人がいるのであれば、そのチケットには10万円分の市場価値があるといえる。それを1万円で販売しているのであれば、差額の9万円を最初から放棄しているともいえるのだ。
確かにbotなどのプログラムを利用して行われている不正な買い占めは、市場取引における逸脱行為ともいえる。したがって、こうしたプログラムを悪用した買い占め行為を禁止することは妥当であると思われる。
海外でも、アメリカのBetter Online Ticket Sales Act(BOTS法)や、イギリスのDigital Economy Act 2017(デジタル経済法)では、botを利用して大量にチケット購入を申し込む行為を禁止している。
チケット不正転売禁止法を所轄する文化庁においては、昨年から漫画村などの違法ダウンロード問題を受けて、サイトブロッキングやダウンロードの違法化が議論されているが、諸問題の解決策としてまず法規制を打ち出すことには疑問なしとはしない。
【2019年6月27日7時40分追記】法規制を打ち出すことに対する見解の記述に誤りがありましたので上記のように修正しました。
いたずらに規制を強化するだけでは社会の諸問題の根本的な解決にはつながらない。むしろ、規制によって民間の活力やイノベーションを奪うことは往々にしてありうるのだ。
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