AIの発達は「会計士の仕事」を駆逐するのか 監査法人のビジネスモデルが変わる可能性も

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冒頭の問いに戻ると、AI時代が本格的に到来すれば、会計士の仕事はなくなってしまうのだろうか。

前出の久保田氏は「まだ相当難しい」とみる。例えば、ウイスキーのボトルを酒屋が売る場合とバーでボトルキープする場合、それぞれ会計的にどのように処理するか。酒屋であれば、顧客に引き渡すときに売り上げを計上すればいいが、バーならボトルキープ時ではなく、来店して消費するときにわたって繰り延べ認識したほうがよい。問題は監査先の会社が酒屋なのか、バーであるかだが、それは会計士が経営者と対話をして、社会的な目からみて妥当性を判断する。

「過去の事例や経験をデータで補うような『判断の補助』はAIで可能になるだろうが、どの会計処理がいいのかという最終判断は人間に残るのでは。会計や監査は白か黒かではなく、前例のないものや答えのないものに回答を出す作業で、どちらかというと芸術に近い」(久保田氏)という。

変わるタイムチャージ式の監査報酬

技術の進歩に伴い、監査法人という組織の人員構成や収益モデルが変わるかもしれない。

監査報酬は現在、「監査に携わった会計士の人数×単価×日数」で計算される「タイムチャージ方式」と呼ばれるやり方で算出されている。

しかし、人(会計士)の代わりにテクノロジーが監査業務の一部を担うようになると、タイムチャージ方式では請求しきれない部分が増えていく。「今はリスクを時間に置き換えて顧客に請求しているが、リスクを見積もるのはなかなか難しい。テクノロジーベースの報酬など、報酬体系は変わっていく」(EY新日本の加藤氏)という。

会計士という仕事はなくならないにせよ、AI時代には監査法人の組織のあり方やビジネスモデルが大きく変容していく可能性がある。

山田 徹也 東洋経済 記者

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やまだ てつや / Tetsuya Yamada

島根県出身。毎日新聞社長野支局を経て、東洋経済新報社入社。『金融ビジネス』『週刊東洋経済』各編集部などを経て、2019年1月から東洋経済オンライン編集部に所属。趣味はテニスとスキー、ミステリー、韓国映画、将棋。

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