AIの発達は「会計士の仕事」を駆逐するのか 監査法人のビジネスモデルが変わる可能性も

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「こんにちは、ヒテッシュ」

「クララ、とても忙しくなりそうだよ。昨夜君が通知してくれた、ラクナ社のニュージーランド子会社に関するリスクを分析する必要があるので、この件に関するすべてのデータをまとめて」

あずさ監査法人の提携先、KPMGが作成した監査の未来像を描いた動画には、こんなシーンが登場する。

ヒテッシュは会計情報の分析者、クララはAIシステムの名前だ。ヒテッシュは監査パートナー(会計士)のルーシーから指示を受け、クララと対話をしながら、監査先の架空売り上げの不正を探っていく。SFではなく、こうしたシーンを現実的な未来として描けるようになったのは、技術的なブレークスルーがあったことが大きい。

パイロットレベルで動き出す「AI監査」

2014年に発足した次世代監査技術研究室の室長を務めるあずさの小川勤パートナーは「動画で使われている技術は、データをリアルタイムで授受できること、AIによる高度なデータ分析、SNSや社員の入退出情報などの非財務データの活用、そしてヒテッシュのようなデータ分析者の存在だ。一つひとつの技術はすでに確立し、『クララ』はパイロットレベルではすでに動き出している」と話す。

監査という仕事は、請求書や注文書、入金データなどの監査証拠を集め、その証拠に基づいて会計士が心証を得て、問題があるかどうかを判断する。ただし、時間的にも人員的にも制約があり、すべての監査証拠に目を通すことは不可能だ。実際には「試査」という形でサンプルを取り出して会計士がチェックしている。

しかし、今後は監査証拠を集めるような地味で、単純な作業は機械などに置き換えられ、データ全量のチェックも可能になる。監査法人と被監査会社のシステムを直結できれば、データのプリントアウトなどの作業も不要になり、「常時監査」と呼ばれる世界も不可能ではなくなる。

PwCあらた監査法人の久保田正崇パートナーは「以前は大きなデータをもらっても使いこなせなかったが、ここ数年でビッグデータの解析技術が進んでコストも下がり、誰でも、低価格で使えるようになった。システムの直結はアメリカでいま試作しているが、おそらく3~5年で一般的になり、会計士の仕事のやり方が大きく変わるだろう」と話す。

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