有人で運転再開、シーサイドラインの今後は? サービス改善と全国の鉄道の自動運転を

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本件が起きるまで、多くの人はシーサイドラインや無人自動運転を初めて知っただろう。また、ゆりかもめ、日暮里・舎人ライナー、愛知のリニモ、大阪のニュートラム、神戸ポートライナー、六甲ライナーと、日本には無人自動運転の路線が多数あることも、多くの人には意外だっただろう。

自動運転と言うと自動車の話題や動きが多いが、日本は実は鉄軌道の無人自動運転の先進国だったのだ。「だった」と言うのは、近年、韓国とフランスが鉄軌道の無人自動運転を急速に増やし、営業延長は追い越されてしまった。

一方、日本はワンマン運転をしている都市鉄道はATO(自動列車運転装置)を備えており、技術では決して劣っていない。

そして、自動運転により運営費を増やさず(有人でも、国家資格が不要の監視員とすることで、同経費で多人数を雇える)に日本の全ての鉄道を高頻度化する。大都市・都市間・地方鉄道ともに利便性が格段に向上し、利用者が増え、収益性が向上し、街の姿を変えられる可能性が生まれる。

これから鉄道の有人自動運転を本格的に展開するに当たり、本件を教訓に、「人間はミスを犯す」「機械は故障する」前提で多重防護を充実させたシステムとする。

振替・代行輸送の計画を事前に準備

逆走事故の起きた深夜の運行会社の緊急記者会見を見て、翌朝に運転再開できない見込みの中、振替・代行輸送について、記者の質問前に説明しなかったことに違和感を覚えた。

振替輸送とは、切符を持っている人に既存の鉄道や路線バスへの乗車を認めること、代行輸送とは、不通となった路線を代行する臨時バス等を運行することである。費用はいずれも原因の事業者負担となる。

原因が何であれ、全線運転できなくなることはあり得る。シーサイドラインは地域の生活や街を支える不可欠なものである以上、本来なら、振替・代行輸送の計画は事前に作成し、関係バス会社やタクシー会社と調整しておくべきである。できれば、説明パンフや案内看板のベースも用意しておきたい。

まさしくBCP(Business Continuity Plan)、事業継続計画であり、企業として当然の責務である。と論評するばかりでなく、シーサイドラインと同等の輸送力をバスで準備するのは無理という前提で、具体的な点を整理しよう。

シーサイドラインは京急と並行し、各駅は京急の最寄り駅まで1~4kmである。最寄りの京急の駅との間を徒歩で移動できる人はそうするようにお願いし、また確保できるバスが限られる中、路線と同一ルートの他に京急の駅と結ぶルートも作るべきだった。

さらに、振替・代行輸送のバス停図が同社HPで公開されたが、各自が最適手段を考案できるよう、もっと広域な地図を公開すべきだったのではないだろうか。

そういったことは急に思い立ってできることではなく、事前の準備・調整が不可欠である。本件を機に、全国の鉄軌道事業者が、それぞれの路線の環境に応じた振替・代行輸送計画を作成することを願う。

阿部 等 ライトレール社長

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あべ ひとし / Hitoshi Abe

1961年生まれ。東京大学工学部都市工学科卒業、同大学院修士課程修了。1988年JR東日本入社。2005年ライトレール創業。交通や鉄道にかかわるコンサルティング・研究開発に従事。著書に『満員電車がなくなる日 改訂版』(戎光祥出版)。

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