田園都市線スーパーが客離れを起こした「真因」 “グルメな主婦"という乱雑な幻想

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「どんな『ジョブ(用事)』を片づけたくて、あなたはその商品・サービスを『雇用』するのか?」

この「ジョブ・雇用・解雇」というたとえは日本人には馴染みにくいものだ。米国企業では、新しい仕事が発生するたびに、そのスキルを持つ人を雇用する。その仕事が終わると、解雇される。ジョブ理論は、この米国流の仕事方法にたとえたものである。

このジョブ理論がわかれば、スーパーで客離れした理由がわかる。このスーパーは「沿線に住む、グルメな専業主婦」をターゲットに、オシャレな高級食材店に生まれ変わった。一見すばらしい。私も思わぬ食材を見つけることがある。

しかし以前のスーパーは、「夫や子供の帰宅前に夕飯づくりを済ませるため、短時間で買い物を済ませたい」というジョブを抱える主婦たちに「雇用」されていたのである。そしてグルメな食材専門店に特化したために、主婦の「必要なものをすべて短時間で買い揃える」というジョブには応えられなくなり、「解雇」されたのである。

「沿線に住む、グルメな専業主婦」というように、表面的に顧客のプロフィールを考えるだけでは、商品は売れないのだ。

必要なのは、顧客を徹底的に観察し、顧客に「雇用」されることだ。

ここで問うべきは、「顧客は、どんな商品やサービスを求めているのか?」ではない。それだけでは、他の選択肢(=ライバル)がよければ、そちらを選ぶ。そうではなく、必要なのは、「顧客は、どんなジョブを片づけたくて、その商品・サービスを雇用するのか?」なのだ。

それでは、ジョブを見極めて成功するパターンはどのようなものだろうか。

オンライン通信課程でイノベーションを起こした大学

米国のある大学は、全米2番手グループの大学だった。「美しいキャンパス、手頃な学費、充実した教育」という売り文句で生徒を募集したが、反応は今ひとつ。ジョブ理論を学んだ学長は、「そもそも学生がこの大学を雇用して片づけたいジョブは何だろう?」と疑問を持った。

入学希望の高校生に聞くと、キャンパスや学費、教育には関心はなく「応援できるスポーツチームはあるか?」「人生の意味を話し合える先生と交流する機会はあるか?」という質問ばかりだった。ここにはライバルがたくさんいる。競争が厳しいのは目に見えている。

一方で、この大学にはオンライン通信課程もあった。特別なことはしていなかったのに、学生が集まっていた。様々な事情で大学進学せず社会人になった人たちで、仕事や家庭と両立して学んでいた。平均年齢30歳。彼らの声はこうだった。

「生活レベルを向上させるために、立派な学歴がほしい」

彼らは、利便性・サポート体制・資格取得・短期終了を求めていた。同じ悩みを持ちながら、教育を受けずにいる人も多かった。

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