佐賀県、長崎新幹線「フル規格化」反対の裏事情 問題は財源だけでない、駅前開発が宙に浮く

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FGT構想の挫折によって、現時点で決まっているのは武雄温泉─長崎間の開業のみ。走行区間わずか66kmの“ローカル新幹線”でしかなく、その経済効果は高が知れている。本州から新幹線を利用して長崎を訪れる観光客は、博多(または新鳥栖)で在来線に乗り換えて武雄温泉まで行き、さらに新幹線に乗り継ぐ必要がある。

フリーゲージトレインの第3次試作車(編集部撮影)

2度の乗り継ぎが面倒なうえ新幹線区間が短いことから、博多─長崎間の所要時間は1時間22分。同区間を特急1本で移動するのと比べて、26分短縮されるにすぎない。これでは多くの利用者が見込めないのも当然で、それが前出の国交省による費用対効果の厳しい試算につながった。

「望んでいたのは、長崎が博多から乗り換えなしで結ばれること。隣の佐賀との間を新幹線が行き来しても意味がない」。地元の長崎県民からは、不満の声が上がる。運行を担うJR九州(九州旅客鉄道)の青柳俊彦社長も、「この不完全な状態が固定化すると採算性が成り立たず、受け入れられない」と話す。

JRは「全線フル規格」要望

さすがに国も今のままではまずいと認識し、整備計画の再修正に向け動き出した。選択肢は2つある。1つは新鳥栖─武雄温泉間でのミニ新幹線方式の採用。もう1つは、同区間にも新幹線の専用線路を新設し、全線をフル規格に格上げする案だ。

JR長崎駅前に飾られた新幹線開業の告知看板。しかし、最終的に博多と新幹線で結ばれるかどうかが見えないため、地元でも困惑が広がる(記者撮影)

ミニ新幹線方式は、在来線線路の軌間を広げ、やや小ぶりな新幹線を走らせる手法。山形・秋田新幹線でも採用されている。ただし、改軌工事が必要で、その間は在来線を長期間運休せざるをえない。新鳥栖─武雄温泉間は博多との間を行き来する利用者が多いため、JR九州は「在来線を運休させるわけにはいかない」としてミニ新幹線方式に反対し、全線フル規格での整備を国に求めている。

同区間もフル規格で整備した場合、6000億円超の追加費用がかかるが、山陽新幹線への乗り入れで関西─長崎間の直通運転が可能になる。所要時間も大幅に短縮される。政府・与党の検討委員会は6月までに“最終形”について方向性を固める予定で、多額の追加費用をかけてでも経済効果が大きい全線フル規格化に傾いている。

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