「むちゃぶり」から100億事業をつくる 元HP「伝説の社員」が語る新・リーダー論(1)
とんでもなく「厄介な仕事」が降ってきた……
この事業が抱えている根本的な欠陥を、おそらくぼくは社内の誰よりも熟知していた。数年前にマーケティング職へと異動したぼくは、Linux事業に関する社内調査を担当し、「この事業は推進するには課題があまりに多い」という報告書をまとめたばかりだったからだ。
また当時、すでにHP本体はグローバルのLinux市場で、競合を抑えて世界トップシェアを獲得していた。そんな中、ぼくのいた日本法人だけが圧倒的に出遅れ、国内シェアも最下位……。 米国本社からもにらまれる“問題アリ”な部門だったのである。
そんな事業のリーダーをやらないかと言われて、喜ぶ人はいないだろう。 樋口社長にプロジェクトを言い渡されたとき、ぼくの頭を占めていたのは「厄介な仕事をやることになったな……」という思いだけだった。「ビジネスとして勝ち目がある」とも「自分にその仕事の適性がある」とも、信じられなかったからだ。
とはいえ当然、サラリーマンのぼくに「断る」という選択肢はなかった。 樋口社長に説得されたぼくは、やむをえずプロジェクトリーダーを引き受けたのである。
リーダーは「イシューの罠」を飛び越えろ
そんなぼくが、売上高5000万円程度だった事業を数百億円超にまで成長させられた理由はどこにあったのだろうか?
詳細は次回以降に書くつもりだが、ひとつだけ、根本の考え方という意味で、決定的だったのは「イシューから始めない」という態度だったと思う。
カリスマ性あふれる「ボス猿」タイプの人や、ものすごく仕事のできる人が新しくリーダーの仕事を任せられると、彼らは「やってやるぞ!」と意気込み、チームにとっての本質的・根本的な問題を解決しようとする。
いわゆる「イシューから始める」という態度だ。
だが、多くの場合、このアプローチは頓挫する。しかも、ぼくのようにカリスマ性がない人間がこれをやろうとすると、結果はもっと悲惨だ。それはなぜか?
まず、プロジェクトの前に立ちはだかる「イシュー」は、短期間で解決できないことがほとんどだ(だからこそ、それは「イシュー」なのだ)。それを解決しようと思ったら、組織を丸ごと変更するなど、トップマネジメントでないと決断できない案件もたくさんある。
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