鎌倉市はマナー条例でどう変貌するのか 「住んでよかった、訪れてよかった」観光都市

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マナーを呼びかける啓発についても制約をかかえている。「看板を立てたいと思っても、景観上の制約(神奈川県屋外広告物条例)から路上に置くことができない。電線地中化でできたポールも東京電力の持ち物でステッカーは貼れない。フラッグだけはOKになった」(高橋氏)。

同商店会は電線類地中化を6年越しの2013年に完成させた。変圧器などの地上機器の設置場所が確保できないため、街灯(ポール)に設置する「ソフト地中化」方式である。ポールは電力会社が所有する。「小町通りと書かれたフラッグをマナー向上の標語を入れたものと全部交換することになった」(同)。

1日平均5万~6万人が訪れ、ひしめき合う小町通り(記者撮影)

標語は商店会の会員から募集し、最後に残った3つから標語を決めた。4月19日、商店会の青年会の手によって、小町通りの名前を掲げたフラッグから標語入りのフラッグに付け替えた。フラッグは『八幡宮の参道です』『マナーを守って鎌倉散策』と入れた標語で作った。

マナー向上の願いを込め、商店会で作った標語入りの40のフラッグは観光客でにぎわう小町通りの上で、今日も多数の人々を迎えながらはためく。フラッグ設置数日後、再び同氏に取材すると、「フラッグはかなり目立つと思うが、混雑した中での食べ歩きは依然多い。マナー浸透までは時間がかかりそうだ」と語った。

誰もが気持ちよく過ごすため

同市観光課観光課長の廣川氏は条例について、「『住んでよかった、訪れてよかった』と思われる市を目指し、誰もが気持ちよく過ごすためにマナーの向上をはかるもの」と説明する。

混んでいる場所では他者に迷惑をかけずにマナーを守り、誰もが楽しめるようにしたいと言う。同氏は「鎌倉市観光課など鎌倉市のツイッターで随時マナー呼びかけの発信をしていきたい」とし、SNSでの積極的な発信も行う予定だ。また、鎌倉小町商店会で市と同商店会と共同でチラシを配ることも検討中だという。訪れる人に直接チラシを手渡しすれば周知にも効果的だ。

マナー条例への思いを語る鎌倉小町商店会会長・ 高橋令和氏(記者撮影)

年間2000万人以上の観光客が訪れる人気観光地ならではのさまざまな問題に、鎌倉市は禁止ではなく、マナー向上という、一人ひとりの良心に呼びかける柔和策を選び、向かい合った。罰則なし、規制なし、自主性に任せる方法で、「住んでよかった、訪れてよかった」と住む人も観光客もが思う真の理想的な観光地を目指す同市と、鎌倉小町商店会の新たな挑戦は始まったばかりだ。マナー向上が浸透し、問題も解決すれば、ゴミのポイ捨てなどに悩む世界各国の都市からも鎌倉はいっそう注目されるだろう。

岩瀬 裕子 東洋経済 記者

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いわせ ゆうこ / Yuko Iwase

小売り、卸、サービスなどを担当。

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