トヨタが中国で「新興EVメーカー」と組んだ事情 「C-HR」のEVを世界に先駆け、中国に投入へ
創業5年ほどのベンチャーにトヨタが学びたいほどの技術力があるのか。
それを探るヒントがある。昨年8月、伊藤忠商事が奇点汽車に出資した際に出したプレスリリースがそれだ。「奇点汽車は単なるEV車両販売ビジネスではなく、車両を顧客接点デバイスと位置づけ、車両を通じたユーザーデータの取得・分析やユーザーへの情報発信を活かした様々なデータ活用サービスビジネスを志向している」。これはまさにトヨタが目指しているモビリティカンパニーの方向性と重なる。
乱立する中国のEVメーカー
中国のEV市場には新興ブランドが次々と出現している。その数は約60社とも言われる。中国政府が自国のEVメーカー育成を狙い、多額の補助金を出してきたためだ。注目を集めるのは、吉利汽車と傘下のボルボ・カーが共同出資するサブブランドの「Lynk&Co」、バイドゥが出資する「威馬(ウェイマー)」、テンセントが出資し、昨年アメリカのニューヨーク証券取引所に上場した「NIO(上海蔚来汽車)」、アリババが出資する「小鵬(シャオペン)」などだ。
いずれもスマートフォンとの連携機能を強化して若者の人気を集めている。威馬、NIO、小鵬の3社は新興EVメーカーの第一陣営とも言われ、豊富な資金力を強みに開発スピードも速い。
量産型EVの投入こそまだだが、トヨタはHVを通じてEVに必要なモーター、インバーター、パワーコントロールユニット(PCU)の技術を磨いてきた。圧倒的な生産数量を活かして、コスト競争力も高い。電池の安定調達に向けても、パナソニックと合弁で2020年末までに電池の開発・生産会社を立ち上げるなど手を打っている。だが、競争軸がIT機能に移る中、トヨタにとっても「売れるEV」を投入するのは簡単ではない。
沈CEOは、今回の提携は豊田章男社長から「中国の若者に対してどのような車が適しているのか、考え方を含めて勉強したい」と提案があったからだと明かす。「(ITを駆使した)スマート技術に関して、わが社が3~5年リードしているとトヨタの幹部も認識している」とも語った。沈CEOは日本で十数年働いたこともあり、日本企業の商習慣を熟知していることも今回の提携を後押ししたようだ。
中国の自動車産業に詳しいみずほ銀行法人推進部の湯進(タン・ジン)主任研究員は、「新興EVメーカーの第一陣営はBAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)の色が濃く、日系企業の参入余地は限られる。その点、奇点汽車は技術力で新興EVメーカーのトップ10に入り、その中でも沈CEOが数少ない親日派だったことが大きい」と今回の提携を分析する。
トヨタとEVベンチャーが組んだ事例といえば、2010年のテスラとの資本・業務提携がある。しかし、この提携は実を結ばず解消となった。社風がまったく違う両社は歩み寄ることがなかった。
CASE(コネクティッド、自動運転、シェアリング、電動化)の波が襲う自動車業界。すべてを自前で開発していては時間も資金もかかりすぎる。自前主義が強かったトヨタも“仲間作り”に舵を切って久しい。奇点汽車との提携の行方をみると、トヨタの変化が測れるかもしれない。
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