「福知山線事故」14年目の脱線とオーバーラン 「JR西日本の弱点」が現れた在来線リスク管理

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現在、約2万7800人いるJR西社員のうち、事故後入社は約1万3400人。ほぼ半数の48.2%に上っている。「安全最優先」や「事故を心に刻む」といったスローガンを唱えるだけでなく、勤務地域や職種が多岐にわたる巨大組織で、各現場の仕事や手順に事故の教訓を具現化させていくことの難しさを来島社長も認める。

「リスクアセスメントの考え方に基づいた具体的な安全の仕組みを作ることと、判断に迷った時に安全最優先で行動する組織風土づくりに取り組んできましたが、事故の経験の有無や世代によって理解度に差があるかもしれない。現場から集まったリスク情報や事故報告はデータベース化して、いつでも参照できますが、そこから何を汲み取り、一人一人が毎日のルーティンに落とし込んでいくか。取り組みを継続し、何度も繰り返すことで温度差が生じないようにしたい」

遺族がJR西に勧めた1冊の本

2017年に発生した新幹線重大インシデントと、その後のJR西の安全対策を検証してきた有識者会議(座長=安部誠治・関西大学教授)は、3月下旬に公表した報告書を次のように結んでいる。

JR西日本の弱点の一つは、せっかく立派な対策や計画を定めても、PDCAサイクルの中でそれが回っていかず、いつのまにか忘れ去られていくという点である。また、振り子の揺れ幅が大きいという点もこの組織の特徴である。2005年4月の福知山線事故のあとは在来線の安全対策に関心が偏り、新幹線の安全性向上施策に対する注意がおろそかになった面があるのではないか。一方で、2017年12月の重大インシデントの発生以降は、今度は経営陣の関心が新幹線に向けられたことで、在来線のリスク管理にスキが生じていないだろうか。新幹線と在来線は、いうまでもなく車の両輪である。バランスのとれたリソースの配分こそが重要である。

『巨大システム 失敗の本質:「組織の壊滅的失敗」を防ぐたった一つの方法』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

まさに「在来線のリスク管理にスキが生じ」た結果が、冒頭の脱線と停車駅通過だったと言えるかもしれない。『軌道』の主人公である淺野氏は、「福知山線事故後に組織風土の改革や、さまざまな安全対策が打たれたことは事実だが、それがどれだけ効果を上げたか、見直すべき点はないのか。JR西は今一度、検証していくべきだろう」と言う。

これらの指摘は何もJR西に限った話ではないだろう。組織というものは、巨大化・複雑化すればするほど、些細なヒューマンエラーから、破滅的なメルトダウン(システムが崩壊、または故障すること)を引き起こすリスクを常に負っている。

淺野氏は最近、JR西の社員たちに昨年邦訳された1冊の書籍を勧めている。『巨大システム 失敗の本質:「組織の壊滅的失敗」を防ぐたった一つの方法』(クリス・クリアフィールド、アンドラーシュ・ティルシック著)。列車や航空機の事故、原発や金融システムの崩壊から、新聞社のフェイクニュース拡散、マーケティング用SNSの炎上まで、あらゆる失敗事例を取り上げたこの本のエピローグに、こんな一節がある。

警告サインから学び、少数意見を促し、多様性を育むことが大切なのは、わかりきったことかもしれないが、それをやる方法は、わかりきったことではない。どれも実行するのは難しい。それはなぜかといえば、私たちの本能に逆らうことになるからだ。私たちは直感や自信を称え、よい知らせを聞きたがり、自分と見た目や考え方の似た人たちと過ごすことを好む。だが、複雑で結合されたシステムを運営するには、その正反対のことをする必要があるのだ。

事故が起こった時、私たちは、ミスをした個人の責任だと考えがちだ。「たるみ」や「意識の低さ」に原因を求める方が簡単だからだ。組織やシステムの問題と考え、解決策を探ることは、ここで言われるように「本能に逆らう」ことかもしれない。だが、それをやらなければ、淺野氏が遺族感情を封印し、技術屋人生をかけて訴えてきたことも、JR西が取り組んできたリスクアセスメントや組織風土改革も無に帰してしまう。

福知山線脱線事故から今日で14年。加害企業のJR西が負う安全追求の責務が終わることはない。

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