西村京太郎が告白「最近の列車は殺しにくいね」 必ず山村紅葉が出演する理由も今明かされる

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4月10日、帝国ホテルにて吉川英治賞の授賞式と祝賀会が行われた。なんと西村先生は、ご自分の招待客3名のうちの1人に、私を呼んでくださった。驚きとともに大変光栄で、喜んで末席に加えていただいた。

贈呈式の様子。向かって左が受賞された作家の方々、右側が選考委員の方々(筆者撮影)

表彰式は吉川英治文学賞を受賞された篠田節子さんをはじめ、選考委員の浅田次郎さん、京極夏彦さん、阿川佐和子さんらそうそうたる作家陣のあいさつが続く。その放たれる言葉の力と熱意に圧倒された。そんな中、われらが西村先生は、ひょうひょうとした出で立ちで、しかし印象に残る受賞あいさつと笑いも提供してくれた。

「正直うれしい。年齢(とし)をとると無欲になるというのは、自分が年齢を重ねてうそだとわかった。年をとると、逆に長生きしたくなるし、世間との接触が、欲しくなるとわかってきた。これで本も少しは売れるかな」

最近の列車は殺しにくい?

表彰式が終わってから、隣の会場で祝賀会が行われた。「西村京太郎様」と書かれたテーブルには何十人もの編集担当さんたちが先生にごあいさつをするために、ずらりと並んでいる。招待客であるはずの私は、そこの席に着くのに臆して、離れたところでひたすら帝国ホテルのごちそうを食べていた。

うれしそうに色紙を眺める先生。寝台特急はやぶさは、私が初めて乗車し、鉄道にはまったきっかけとなった列車でもある(筆者撮影)

ひとしきり列がなくなった頃に、お祝いに描いてきた色紙をプレゼント。先生が最初に書いた鉄道ミステリー『寝台特急殺人事件』の舞台、寝台特急はやぶさに、十津川警部に扮した先生と、後ろにカメさんに扮した私が乗っているという構図だ。そう説明すると、先生は「自宅に飾るよ」と喜んで受け取ってくれた。

先生が長年、トラベルミステリーを書かれている間に、鉄道車両はだいぶ様変わりし、寝台列車や夜行列車は次々と廃止に。窓は開かなくなり、トリックを考えるにも難しくなった。

「やはり寝台列車のほうが殺しやすかったね」

最近の列車は殺しにくくなった、と先生。

普段、先生は車いすで移動されるが、新幹線の車いす対応座席が埋まってしまって予約が取れないことも多いという。バリアフリー法が制定されて以来、車いすスペースや車いす対応のトイレが設置される車両が増えたとはいえ、まだまだ不足している。

「なかなか出かけられなくなったよね。バリアフリーでない場所は難しいから、取材も最近は、担当編集に行ってもらうことも多いんですよ」

今後、鉄道に期待することは何かを聞いてみた。その答えは「夜行列車をもう1度復活してほしい」というものだった。

「殺しやすいから、とかそういうことではなく、今の若者に乗ってほしい。あの楽しさを知ってほしいよね」

近年、先生はトラベルミステリーではない、戦争をテーマにした作品なども発表されている。ご自身の使命のように感じられているようだ。

「作品を書き続けるには、飽きないこと。緊張を保つのが大変だね」

つねに世間と接点を持ち、貪欲さと柔和さを合わせもって書き続けることのすごさ。鉄道ファンのカテゴリーでいうと、西村先生は時刻表の数字の羅列を見て旅を妄想する「時刻表鉄」だ。

作品とともに旅を続け、私たちにそれを垣間見せてくれる。先生の「旅」のお供ができることを、この先もずっと期待したい。

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