視聴率20%たたき出す「鹿児島最強番組」の中身 視聴率三冠王・南日本放送は何がスゴいのか

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地域共生の原点にあるのは、1993年8月6日に鹿児島市を襲った集中豪雨での出来事だ。MBCの面する甲突川が氾濫して局舎に水が流れ込み、冠水の危機に瀕した。社員がモップなどで水を必死にかきだし、なんとか特別番組を流し続けたという。

災害でライフラインなどの情報を伝えるのは、地域メディアに課せられた使命だ。災害時に地域住民のニーズに応えるためには、「日ごろから地域住民との話し合いをきちんとしておくことが必要」(中村)。集中豪雨での被災経験が住民側に立つことの大事さを再認識させたことは想像に難くない。

県内全域260人から情報を寄せてもらう

番組制作の基本理念は「ネットワークを作り、ネットワークで作る」。地元のケーブルテレビやコミュニティFM局など36の地域メディアと連携し、局員ではカバーし切れない情報を吸い上げる。コミュニティFM局のスタッフがMBCのテレビ番組に出演することも少なくない。

「ふるさと特派員」も理念に沿った取り組みの1つだ。県内全域の約260人の一般の視聴者からニュース番組などに映像や電話で情報を寄せてもらう。局と特派員の間には信頼関係が構築されているのだ。これならば、SNS経由で投稿された情報をめぐる取り扱いのように、虚偽か否かを判断するサービスなどを導入する必要もない。

ローカル局の経営基盤を支える地元経済は疲弊が進む。人口減少という構造的な問題に直面する地域も少なくない。

民放連が2018年に総務省の「放送を巡る諸問題に関する検討会」放送事業の基盤強化に関する検討分科会で提示した「民放ローカル局経営の現状について」という資料に記載されたデータによると、2017年度末のテレビ1局当たり(ラジオ兼営局を含む)の売上高は東京エリアの局が2287億円、大阪530億円、名古屋255億円。一方、その他地域の系列ローカル局は64億円にとどまる。彼我の差は歴然だ。

最近のテレビとネットの常時同時再配信に向けた動きもローカル局には大打撃。キー局がネットを通じて自社のコンテンツを即座に地方へも配信できるようになれば、キー局の番組を地方で流すことによって得られる「ネットワーク分配金」が支払われなくなってしまうかもしれないからだ。こうした中、ローカル局再編の議論も活発化しつつある。実際、一部には厳しい状況に陥ったローカル局も出てきた。

中村会長の部屋に飾られた社是。専務時代に考えついた(筆者撮影)

MBCの中村会長も「現在の放送局数をこのまま維持することはできない」と断言するが、一方で、「他社に先駆けて地域と徹底的に付き合ってきた」ことで体力を蓄えてきた自負もある。

「ふるさとたっぷり」。会長室に掲げられた社是である。中村会長が、専務時代に考えついたキャッチコピーだ。愚直なまでの地域密着戦略にはいささかの揺るぎもない。 

松崎 泰弘 大正大学 教授

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まつざき やすひろ / Yasuhiro Matsuzaki

フリージャーナリスト。1962年、東京生まれ。日本短波放送(現ラジオNIKKEI)、北海道放送(HBC)を経て2000年、東洋経済新報社へ入社。東洋経済では編集局で金融マーケット、欧州経済(特にフランス)などの取材経験が長く、2013年10月からデジタルメディア局に異動し「会社四季報オンライン」担当。著書に『お金持ち入門』(共著、実業之日本社)。趣味はスポーツ。ラグビーには中学時代から20年にわたって没頭し、大学では体育会ラグビー部に在籍していた。2018年3月に退職し、同年4月より大正大学表現学部教授。

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