阪急の観光列車、普通運賃だけで「驚きの内装」 大胆な戦略の裏には綿密な計算がある?

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2号車にある枯山水の庭(撮影:梅谷秀司)

車内の様子を具体的に見ていこう。2号車と5号車には小さな庭が設置されている。2号車は枯山水の庭で、水を使わず大小の石の組み合わせで山水を表現する。5号車は坪庭で、石灯籠や水鉢、柄杓(ひしゃく)が置かれている。

2号車、5号車とも、小さな庭の前には畳の座席が設置されており、そこに座れば円窓から流れる景色も同時に楽しむことができる。コンパクトな面積で雄大な自然を再現する日本庭園は外国人にも人気が高いが、走る列車内で小さな日本庭園を展開するという発想は、まさに日本の鉄道会社ならではだ。

3・4号車には窓向きの座席もある(撮影:梅谷秀司)

1号車、6号車はボックス席中心の構成。逆に3号車、4号車は一人旅の乗客も楽しめるよう1人座席を多数設置したほか、車窓を楽しめる窓向き座席を設置している。6両編成のどこを切り取っても、写真を撮りたくなるほど美しい。各号車には丸い窓もあり、これをバックに写真を撮れば、いかにも「インスタ映え」しそうだ。

走る列車内の装飾ということもあり、安全上、さまざまな工夫が施されている。坪庭の石は列車の揺れで飛び散ることがないよう、しっかりと固定されている。柄杓も持ち去られることがないよう、ひもで縛られていた。

和の感じを醸し出すため内装は木材をたくさん使っているように見えるが、その多くはアルミなどの形材に木目デザインをあしらったもの。純然たる木材はボックス席など一部のみだ。これも難燃性の高い素材が使われている。

デザインはメーカー社員

観光列車は、著名なデザイナーが車両デザインに参加していることを売り文句にしている例も多いが、雅洛は阪急阪神グループの車両メーカー・アルナ車両の社員によるデザインだという。必ずしも社外に人材を求めなくても、観光列車を造ることはできるということだ。

雅洛は新車ではなく、既存車両を改造した。その費用は「非公表」だが、細部に及ぶ徹底的なこだわりは半端ではない。かなりの金額がかかっているはずだが、「列車に付加価値を付けることで、ご乗車のたびに京都気分を楽しんでほしい」というのが阪急のスタンスだ。

ちなみにJR九州の「指宿のたまて箱」の製造費用は2億円弱。2両編成なので1両あたり1億円弱ということになる。JR九州は観光列車の運賃、特急料金、車内販売収入などで7~8年かけて投資額を回収するという計画だ。九州新幹線で乗車駅までやってくる乗客もいると想定し、新幹線収入の一部も収支計算に含めている。それにひきかえ、追加料金を徴収しない阪急はずいぶん太っ腹に見える。

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